第46話
王国内地下にあった『愚者の迷宮』の激戦後、王国の外では
安いキセルに安い葉っぱ。
そこに小さな火をつけて今日もお出かけをする客を待ちわびていた。
「―――――そういや、あの人ら大丈夫かね?」
先日、不思議な出会いをした少年少女と妙な男の三人組を思い出した。
それにいつもなら花を売ったらすぐに村に帰る手筈だったフェリスとリューシカの二人もまだ帰ってこなかった。
「何か面倒事に巻き込まれてなきゃいいんだが」
そんな事を呟いていると、急に竜車が重みで沈んだ。
客人でも来たのだろうか、そう思っていた男は何となく振り返る。
そこには、
「いってぇ! ちょっと鳴上さん! もうちょっと丁寧にしていただけませんかね!? 神無月さんは大怪我してますのよ!?」
「文句があるならもう一度あの『愚者の迷宮』という所へ戻しましょうか? 貴方一人だけ」
「カカッ! 仲がいいのは羨ましいですなぁ。若いって素晴らしい!!」
と見覚えのある三人が竜車の荷台の中に突然現れた。
「あ、アンタら―――――」
「おじさん!」
「おじさんだ!!」
ボロボロになったフェリスとリューシカ、それに見覚えのないボロボロの衣服を纏った老若男女が約二十人ほどゆっくりと空から降りて来た。
「!!??」
言葉にならない悲鳴を上げかけたが、十夜と蓮花、万里の三人に口を押さえつけられる。
「ごめんおっちゃん! 説明は後でするから早く『ウルビナースの村』へ急いでくれ!!」
「いや、でも―――――」
「代金はこれだけで足りますか!? お釣りは結構です!!」
蓮花は男の手に金貨十数枚を手渡した。
約三十人を乗せるには十分すぎる代金だが、問題がある。
「いや、だから―――――そんなに乗れねぇよ」
男が呟いた。
何かとんでもない事件に巻き込まれた、そう思わずにはいられなかったし今後は『ディアケテル王国』には近寄れないかもしれないと、男は漠然とそう感じた。
ゆったりとした景色を十夜達は歩きながら眺めていた。
小さくなっていく『ディアケテル王国』の中では恐らく慌ただしくなっているのだろうが、そんな事は今はどうでもよかった。
「しかし驚きましたな。まさか蓮花殿にこんな力があったとは」
万里がポツリと呟く。
竜車は満員なので子供と年配を優先に、残りは仲間の竜車がいる場所まで徒歩だった。
背後からの敵襲を警戒していた蓮花がため息をついた。
「まぁ緊急事態でしたからいいですけど、これも秘術の一つなので口外しないで下さいよ」
そう言いながらも警戒を怠らない。
「いや、実際スゴいぞ。これだけの人数を一瞬で王国の外へ出すなんて」
褒められる事に慣れていないのか蓮花の口数は少ない。
だが空気で喜んでいるのが伝わった。
蓮花の秘術『空匣』―――――もう一つの能力は指定した空間座標の入れ替えだった。
この応用で身代りの術や、
今にして思えば、単純な速さもあるのだろうが明らかにおかしいと思う移動速度があった。
それが〝この術〟だったのだろう。
全ての戦いが終わった後、あれだけ派手に暴れたのだ。
城内はもちろん、全騎士団に伝わってしまった。
第四師団団長、エスカトーレ・マグィナツの死亡。
そして現国王、ルイマルス・ディア・ケテルの崩御。
恐らくだが、十夜達は王国に指名手配されることになるかもしれない。
だが、
「上等だ」
十夜が立ち止まりポツリと呟く。
元々彼は人格者でもなんでもない。
それは十夜だけでなく、蓮花も万里もそうなのだろう。
ならば、と考える。
無法者は無法者らしく世界を渡り歩き、元の世界へ帰る方法を見つけるまでだ。
その為に、もし目の前に大きな壁があったとしても、
「(邪魔するヤツは誰だろうがぶっ飛ばす)」
そう誓い十夜は再び歩みを進める。
異世界に召喚され同じ境遇の二人に会った。
このロクでもない世界でも自分達に良くしてくれる人がいる。
今はその事実だけでいいと十夜は静かに思うのだった。
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