ばあちゃんとじいちゃんの家

「おじゃましまーす!!」



 少年が元気な声でそう言うと、玄関の奥から割烹着を着たおばあさんがゆっくりと顔を覗かせた。



「いらっしゃい悠珠ゆずちゃん。柏狐村はくこむらまで遠かったろう?ここまで一人で大丈夫だったかい?」

「うん!母ちゃんから地図みたいなの貰ってたから、わかんなくなったら色んな人に聞いて来たよ!」



 ほらこれ!と、几帳面に折られた紙をリュックサックから取りだした少年の首には、青色の小さな巾着袋がぶら下げられていた。



「そうかい。それは色んな人に助けてもらったねぇ」

「ちゃんとありがとうも言った!」

「あらまあ、ちゃんとありがとう言えて偉いねぇ」



 おばあさんがそう言って、少年の頭を優しく撫でると、少年は「俺もう二年生だもん!」と誇らしげな笑みを浮かべた。



「あっ!そうだ!えっと、これから夏休みの間、よろしくお願いします!」



 少年がぺこりとお辞儀をすると、おばあさんも「こちらこそよろしくねぇ」と言って、ゆっくりとお辞儀をした。



「ほら、あがってあがって。外は暑かったろう。お腹空いてないかい?」

「ペッコペコ!!」

「ふふっ、そうかい。」



「おはぎ作ったから手洗ったら一緒に食べようねぇ」と言って、おばあさんは悠珠の荷物を受け取って台所へと戻って行った。











 悠珠ちゃんと呼ばれた少年、垣下悠珠かいもとゆずは小学二年生の男の子だ。茶色い髪の毛に、焦げ茶色の目はまあるくパッチリとしている。

 割烹着を着たおばあさんは、悠珠の祖母だ。目尻のシワが笑うとさらに深くなり、優しそうな雰囲気を漂わせていた。


 悠珠は今、祖父母の家に一人で来ていた。

 何故悠珠が一人で祖父母の家に行くことになったのか。

 それは、夏休みに入ったのはいいものの、両親が出張で家にいられなくなってしまったからだ。

 そのうえ、出張が悠珠の小学校の夏休み期間の最初から最後までと丁度かぶってしまった。

 流石に小学二年生の子供をそんな長い期間一人にはできないと悩み、両親が祖父母に頼んで見たところ、祖父母は二つ返事で了承してくれた。


 そんな訳で悠珠は夏休みの間、柏狐村にある祖父母の家に一人で泊まりに行くことになったのだった。











「ばあちゃん手洗った!」



 手を洗ったままのビシャビシャな手で台所へと向かうと、ばあちゃんはその手を優しくタオルで拭いてくれた。



「ほら、ちゃんと手も拭くんだよ」

「ありがとばあちゃん!」



 悠珠がふと台の上に目を向けると、悠珠とばあちゃんが食べる為に大皿に分けられたおはぎとは別に、炊いていないお米が盛られた小さいお皿が置かれていた。



「ねぇばあちゃん。それまだ柔らかくないよ?なんでお皿に盛ってるの?」

「これは紅守べにもり様にお供えするものだからねぇ」

「べにもりさま?」



「こっち、持てるかい?」と悠珠に小さなお皿を差し出すと、ばあちゃんは大皿を持って居間の方へそれを運んだ。

 悠珠は小さなお皿を持つと、トタトタとばあちゃんの後について行った。



「ありがとうねぇ」

「うん!」



 居間へ行くと、ばあちゃんが悠珠から小さなお皿を受け取り、壁の少し高い位置にあった棚のような所へ置いた。よく見ると、札のようなものや小さい鳥居のようなものもある。


 両親が仕事で忙しいということもあって、悠珠がばあちゃんの家に来るのは、一年に数回だけだ。長い時でも三泊程で、短い時では日帰りで帰ってしまう。

 だからなのか、あの棚にはたった今気がついた。自分が気づかなかっただけで、ずっとあの棚はあったのだろうか?



「ばあちゃん!それ何?!」

「それって神棚のことかい?」

「たぶんそう!!」



 悠珠が興味津々といった様子で見つめると、「じゃあ食べながら話そうねぇ」と、悠珠にお茶を注いでくれた。



「それで、かみだなってなぁに??」

「神棚はね、神様を祀るための棚だよ」

「えっ!神様ってあんなに小さいの!?」



 悠珠はもう一度神棚の方をむくと、神様の大きさを想像する。


 今まで悠珠が思っていた神様といえば、雲の上に乗って杖を持っているお爺さんだった。大きさだって少なくとも自分よりは大きいのだと思っていたが、今の話を聞くと神様は自分が今食べているおはぎ程の大きさなのかもしれない。いや、もしかしたらもっと小さいのかもしれない。


 そう考えた悠珠は信じられないという顔をして神棚からばあちゃんへと視線を戻した。



「神様にもいろんな神様がいるからねぇ。小さい神様も居るだろうし、大きい神様もいるだろうからね」

「…じゃあ神様は小さいの?大きいの?どっち??」

「さぁ、どっちだろうねぇ」



「えー!!」と不満そうな声をあげる悠珠を見て、ばあちゃんはふふっと微笑ましげに笑いながら、「でもねぇ…」と話を続けた。



 「神様はね、いつでもばあちゃん達のことを見守ってくれてるからねぇ。だから、ちゃあんと感謝を伝えるんだよ。いつもありがとうございますって」

「だからさっきお米を置いたの?」

「そうだよ」



 そうだったのかと納得した悠珠は、さっきばあちゃんが言っていた言葉をふと思い出した。



「じゃあさ、ばあちゃんがさっき言ってた、紅守様っていうのも神様の名前?」

「うん。そうだよ。紅守様はねぇ、この柏狐村の守り神様なんだよ」



 瞬間、悠珠の目は尋常じゃないほど輝いた。守り神という言葉が、小学二年生である悠珠のかっこいいセンサーに見事引っかかったからだ。悠珠は「どんな神様!?」と、キラキラした目でばあちゃんを見つめた。



紅守大神べにもりのおおかみと言ってね、村の皆は紅守様ってお呼びしているんだよ」

「…べにもりのおおかみ?…おおかみ」



 少し考えたあと、ワクワクを抑えられないというようにばあちゃんに問いかけた。



「ばあちゃん!その紅守様?にはどこで会えるの?」

「紅守様にかい?んん、会えるかどうかはわからないけど、近くに百紅山さるべにやまがあるだろう?そこにある百紅さるべに神社に紅守様は祭られているんだよ」

「百紅神社?」

「ほら、悠珠ちゃんも七五三の時行ったことあるだろう?覚えてるかい?」



 うぅんと唸り声を出して悠珠は考えるが、どうにも上手く思い出せない。

 するとばあちゃんがそういえばと、悠珠に声をかけた。



「五歳の七五三の時、悠珠ちゃんがいつの間にかいなくなっててねぇ。必死で探してたら、大泣きしている所をやっと見つけたんだよ」

「えっ!そんなことあったの?」



 五歳の時にそんなことがあったなんて、悠珠は全く覚えていなかった。いや、全くという訳では無いが、何となくピンクとか赤とか綺麗なものが見えた気がするくらいで…



「あっ!木に赤色のお花が沢山咲いてる山のとこ?」

「そうそう。百日紅さるすべりの沢山生えた所にある神社でね。山の中で神社の近くの一部分だけ、百日紅が群生してる場所だよ」

「知ってる!百日紅がたっくさん咲いてるから、百紅山って言われてるんでしょ?父ちゃんが言ってた!」



 悠珠が自慢気にフフンッ!と鼻を鳴らすと、ばあちゃんは「よく知ってるねぇ」と悠珠のことを褒めてくれた。



「ばあちゃんは百日紅が綺麗に咲いたあの景色が大好きでねぇ。なかなか見に行くことは出来ないんだけどねぇ」

「えっ!好きなのに見れないの?なんで?」

「ばあちゃんは足が昔より悪くなっちゃったからねぇ」



 ばあちゃんがそう言いながら膝をさすると、悠珠は心配そうに眉をしかめた。



「ばあちゃん大丈夫?」

「大丈夫だよ。山道とか足場が悪い所がは少し難しいだけで、歩けないわけじゃないからね。それに、ゆっくりになっちゃうけど、悠珠ちゃんとお散歩が出来なくなるわけじゃないよ。」



 ばあちゃんがにっこり笑いながらそう言うと、安心したのか悠珠のしかめていた眉が少し緩んだ。

 悠珠のその様子を見たばあちゃんは、さらに目尻のシワを深めて話を続けた。



「神棚を置いたのはね、ばあちゃんにはもう昔のように毎日百紅神社までお参りに行くのが大変になっちゃったからなんだよ」

「じゃあもうばーちゃんは神社には行かないの?」

「そういう訳じゃあないよ。足の調子のいい時は近くの祠に備えるおはぎを持ってお参りに行くよ」



 悠珠は「そっか!!」と笑顔を見せると、先程考えたことをばあちゃんに伝えようとした。



「じゃあさばあちゃん。百紅神社に行けば、さっきばあちゃんが言ってたおおか……」



 バンッ!!!



 突然風船を割った時のような大きな音がして、驚いた悠珠がばあちゃんの方を向くと、ばあちゃんは困ったように笑いながら玄関の方へ歩いていった。


 悠珠が恐る恐るばあちゃんについていくと玄関には籠いっぱいの野菜を持ったじいちゃんが立っていた。



「おお悠珠!久しぶりだなあ!」

「…じいちゃんかよ!何かあったのかと思ってびっくりしたんだからな!」



 悠珠が頬を膨らませて怒ると、じいちゃんは豪快に笑いながら「すまんな!」と謝りながら悠珠の頭を撫でてくれた。



「こら爺さん。引き戸を勢いよく開けるのは止めてくださいって何回も言ってるでしょう?」

「婆さん、今帰ったぞ!今日は野菜がいっぱい取れたからな!」

「まったくもう。あら、これはまた随分と。今日のお夕飯は夏野菜のカレーでも作ろうかしらねぇ。」



 ばあちゃんはじいちゃんから籠いっぱいの野菜を受け取ると、ゆっくりと台所の方へと戻っていく。

 悠珠はばあちゃんを手伝おうと思い、せっせとばあちゃんの持つカゴの下を支えた。











「悠珠ちゃんはナスが苦手だったかい?」



 悠珠のお皿を見ながら、ばあちゃんが一言悠珠に問いかけた。


 じいちゃんが帰ってから、ばあちゃんは早速夕飯の支度に取り掛かり、宣言通り夏野菜のカレーを作ってくれた。

 じいちゃんが自分が入るついでに一緒に悠珠のことも風呂に入れてくれ、ポカポカと体の温まった悠珠は、ちょうど出来上がった夕ご飯にわくわくとしながら居間の机の前に座った。


「いただきます!」と大きな声でご飯を食べ始めた悠珠は、モグモグと頬を一杯にしながら食べ進めた。ばあちゃんの作るご飯はどれもとても美味しい。悠珠はばあちゃんの作るご飯が大好きだった。

 そして、ばあちゃんのご飯美味しいなぁと思いながら食べていた悠珠は、ふと途中で気づいてしまった。


 自分の苦手なナスが入っているということに。


 しかも、なぜ食べ始める前から気がつかなかったのか疑問に思うほど、ゴロゴロと大きなナスだ。ほかの具材に比べても大きいナスが、お皿の中に一つしか入っていないのが唯一の幸いだった。


 悠珠はひとまずナスをお皿の端に避けて無かったことにした。


 その後もモグモグとカレーを食べ進める悠珠だったが、あっという間に食べ終わってしまい、一度無かったことにしたナスは空になったお皿の中で「僕も食べて!」とでも言うようにその存在を主張していた。

 ナスを絶対に食べたくはないが、残してしまうのは悪いことだとわかっている悠珠は、このナスをどうすればお腹の中にしまい込めるのかとギリギリと顔を顰めてナスを見つめた。


 そんな悠珠を眺めていたばあちゃんは、お皿に残ったナスを見て、先程の言葉を悠珠に聞いたのだ。



「ナス嫌いぃ」

「そうだったかい。それは悪いことしちゃったねぇ。ごめんね」

「ばあちゃんは悪くないもん!悪いのはナスだもん!ばあちゃんのご飯は好きだもん!」



 プリプリと頬を膨らませながらも、視線はナスから動かない悠珠と、「ばあちゃんのご飯は好き」だと言ってもらい嬉しくてふふっと目尻のシワを深くしたばあちゃんを見て、じいちゃんがニカッと笑いながら悠珠に問いかけた。



「悠珠は嫌いなものを食べようと頑張ってるのか!」

「…食べたくないけど、けど残すのはダメだもん」

「はっは!悠珠は偉いなぁ!」

「でもまだ食べれてない…」



 さっきまで眉間に皺を寄せてナスとにらめっこしていた悠珠が、次はしょんぼりとした顔で少し悲しげにナスを見つめるのを見ると、じいちゃんは「しょうがない!」とゆずのお皿を自分の方へと移動させた。

 そして大きなナスをスプーンを使って分けると、少し大きめな方のナスを自分の皿へと移し、先程よりも小さくなったナスの入ったお皿を悠珠へと戻した。



「本当はじいちゃんが全部食べてやってもいいんだが、悠珠が頑張ろうとしてるからな!じいちゃんが少しだけ食べてあげよう!そのナスを食べられれば、悠珠は今よりもっとかっこよくなれちゃうな!」

「…!じいちゃん、ありがと!」



 悠珠がもう一度ナスを見ると、随分と小さくなっていた。先程までのナスが親分だとすれば、このナスは子分だろう。親分に比べれば、子分など怖くない。

 そう思い悠珠は意を決したようにナスをスプーンで口元まで持っていき、少し躊躇ったあと、パクリとナスを口に含んだ。

 一回二回と噛んだ後早々に飲み込み、コップに入っていた麦茶をゴクゴクと飲み干して、ふぅ〜と息を吐いてコップを置いた。

 そして、キラキラとした笑顔を見せてじいちゃんを見た。



「食べた!俺ちゃんとナス食べたよ!」

「凄いなぁ悠珠!ナスが食べれたぞ!」

「悠珠ちゃんはかっこいいねぇ。すっごく偉いわ」



 じいちゃんとばあちゃんは、これ以上ない程に悠珠を褒めた。嫌いなものを頑張って食べた後、溢れんばかりの笑顔でドヤァとしている孫が可愛くて可愛くてしょうがなかった。そして、そんな二人の賞賛を受け悠珠はフフンッと得意げに「ごちそうさまでした!」と、手を合わせた。













 あたりはもうすっかりと暗くなり、窓から覗く村はいつもゆずが住んでるところよりも一層暗く見えていた。

 ばあちゃんが用意してくれた、夏休み間自分の荷物を置いている部屋で寝る支度を終わらせた悠珠は、夏休みの宿題である日記を取りだし、机に広げた。



(何を書こうかな)



 悠珠はいつもよりもキラキラ光っている星達を眺めながら数秒考えたあと、日記の二ページ目に鉛筆を走らせた。

 しばらく書き続けたあと、満足気に見返した悠珠は「よしっ!」と呟いて日記をバックの中へと戻した。


 悠珠はばあちゃんの家に来る前、父ちゃんと母ちゃんと夏休みの宿題を終わらせるという約束をした。その中でも夏休みの日記は、会えない二人に夏休み明けに読んでもらうために、しっかりと書こうと決めていたのだった。

 この日記を読んだ二人と、こんなことがあったのだと話すことを悠珠は今から楽しみにしていた。



(朝バイバイしたばっかだけど、もう会いたいなぁ)



 ふわぁと欠伸をひとつこぼしてもう寝ようと思った悠珠は、荷物を整え電気を消してトコトコとばあちゃんとじいちゃんの寝室へと向かった。



「おや悠珠ちゃん。寝る支度は終わったかい?」

「うん!歯磨きもちゃんとしたよ!」

「うん。ちゃんとできて偉いねぇ」



 ばあちゃんが悠珠のことを褒めながら布団に入れてやると、丁度歯磨きを終えたじいちゃんが部屋に入ってきた。



「おっ、悠珠ももう寝るのか」

「うん!じいちゃんも一緒に寝るでしょ?」

「当たり前だろう!じいちゃんも寝るぞ」



 そう言ってじいちゃんが布団に入ると、ばあちゃんは悠珠の首元にかかっている首飾りのような青い巾着袋を見て、嬉しそうに悠珠に問いかけた。



「悠珠ちゃん、そのお守りしっかりつけてくれてるのねぇ」

「うん!ばあちゃんが俺が見つけた石入れてくれたんだもん!寝る時もずーっとつけてるの!」



 悠珠の首にかかったお守りは、昼におはぎを食べながらばあちゃんが話してくれた七五三の時に、迷子になった悠珠が手に握りしめていたという赤く透き通ったガラス玉のような小石が入っている。

 とても綺麗な小石だったので、悠珠が肌身離さず持ちたがり離さなかったため、片手が塞がるのは危ないだろうとばあちゃんが首にかける巾着袋を作ってくれたのだ。

 それからというもの、悠珠はずっとその首飾りをつけ続けている。

 実際のところ、悠珠はどこでこの石を見つけたのかも、どうしてもっていたのかも覚えてはいないが、何となくずっと持っていた方がいいと感じたのだ。



「そうかいそうかい。それは嬉しいねぇ」

「俺の大事な宝物だから!」

「ふふっ。あら、よく見ると少し糸がほつれちゃってるねぇ」

「ほつれる?」

「ほら、ここ。糸がぴょこんって出てきちゃってるでしょう?」

「あっ!本当だ!」



 ほつれた糸を見て、悠珠がどうしようとアタフタし始めると、じいちゃんが笑って悠珠の肩にポンっと手を置いた。



「大丈夫だ悠珠!きっとばあちゃんが直してくれるぞ!」

「はい。ちゃあんと直してあげましょうねぇ」

「ほんと…?」



 勿論だと言うようにばあちゃんは目尻のシワを深くして頷いた。



「だから、少しだけ、悠珠ちゃんのお守りを預かってもいいかい?」

「うん!ばあちゃん、お願い!」

「はい。任されました」



 悠珠からお守りを受け取るとばあちゃんは大切に裁縫箱の入った棚の中へとしまった。

 そして、戻ってきたばあちゃんと隣にいるじいちゃんにもう一度挟まれると、悠珠は嬉しそうに布団を被った。



「…ねぇ、じいちゃん、ばあちゃん」

「どうした悠珠?」

「お水でも飲みたいかい?」

「ううん。違くて」



 悠珠はパッと起き上がり、二人の方を眺めると、フンフン鼻を鳴らしたように意気込んだ。



「俺ね、夏休みの間この村を冒険するの!それでね、それでね、さっきばあちゃんが話してくれた、様に会うの!」



 悠珠の宣言に、二人は目を丸くした。

「大神様に会う」とは、神社に行ってもお参りをするということではなく、きっと彼にとっては、目の前に立って挨拶をするという事に近いのだろう。とても大きな目標だと、ばあちゃんはニコニコしながら悠珠を見つめ、じいちゃんは悠珠の頭を優しく撫でてやった。

 本当に会えるかどうか定かではないし多分会えない確率の方が高いだろう。それでも、「大神様に会う」という目標を掲げて、この村を冒険した思い出は、きっと悠珠の良い宝物になるだろうと思った。


実際のところ、二人の思っている様と違い、悠珠はオオカミ様を、物語に出てくるような心優しいなのだと思っているのだが。



「それはそれは大きな目標だね。悠珠ちゃんなら会えるかもしれないねぇ」

「危ないことをするのはダメだぞ?悠珠が怪我したらじいちゃんもばあちゃんも悲いからな!」

「うん!気をつける!」

「それと、村の人に会ったらしっかりと挨拶すること。きっと何かあった時に悠珠を助けてくれるからな」

「わかった!」



 二人に応援され、俄然やる気の上がった悠珠は、明日から始める冒険に胸を踊らせながらほくほく笑顔で眠りについた。

 そんな期待に満ちた孫の寝顔を眺めながら、二人は優しげに微笑みあい、この子にとって最高の夏休みが訪れることを心から願った。

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