第136話 歴史の真実


 今までペットとして認識していた鳩が自身の先祖だった。

 その事実ポンデローザは激しく動揺した。


「ご、ご先祖様!? そんな情報、原作にだって……!」

「落ち着けポン子。それでムジーナ様、全て教えてくれるんですよね?」


 スタンフォードはポンデローザを宥めながら、霊体として顕現したムジーナへと問いかけた。


『ええ、状況は切迫している。世界樹の生み出す濃い魔力を得られるここならば時間制限もない』


 そう前置きすると、ムジーナは語り始める。


『ミドガルズオルムの目的は、聖剣ベスティア・ブレイブと世界樹の巫女ラクリア・ヴォルペの完全な復活よ』

「聖剣と巫女の復活?」

『あの二人はあいつが最も執着する存在だもの』


 吐き捨てるようにそう告げると、ムジーナは続ける。


『ミドガルズオルムは世界樹の根元で暮らしていた蛇が魔力を与えられ、竜へと進化した存在。力を与えられたミドガルズオルムは世界樹周辺の土地を守る役目を与えられていた』

「ただの蛇から竜へ?」


 ポンデローザはその変化の過程を想像するが、うまくイメージできずに首を傾げる。

 そもそも彼女は竜とは何なのかすらよくわかっていなかった。

 そんなポンデローザを置いて話は進む。


『でも、ミドガルズオルムは欲望のままに世界樹周辺の土地を支配し、豊かな土地はどんどん荒廃していった』


 食物連鎖を乱す頂上的な存在。それが欲望のまま捕食し、好き勝手に暴れまわれば結果は言うまでもない。

 中途半端に知性を与えられたことで、ミドガルズオルムは守護竜の役目を果たすこともなく、ただの厄災となり果てた。

 木々は枯れ、大地は痩せ細り、多くの生物が住処を追われることとなった。


『その結果、世界樹はミドガルズオルムを追放した。力を奪うことはできなかったから、世界樹の根が届く範囲に入ると力を吸い取るようにしてね』

「だから、ミドガルズオルムは世界樹がある限り手を出せなかった」

『ええ、そしてミドガルズオルムはそれを恨み、新たな守り手に選ばれた人間を酷く恨んだ』


 それは当然の流れである。

 世界樹の恩恵を受けられる場所は世界樹の根が届いている場所だけ。

 つまり、世界樹が存在する限り、ミドガルズオルムは世界樹に近づくことができないのだ。

 かつて自分が支配していた楽園、それを奪われたミドガルズオルムは復讐を誓った。


『ミドガルズオルムは追放後、体内に宿した闇魔法で配下にした生物を改造しはじめた。トカゲは竜へ、人は竜人へ、そうやって着々と戦力を増やしていった』

「そうして出来上がったのがミドガルズ王国」

『あたし達の住んでいた世界樹の根元の集落も外敵と戦うための戦力を求めていた。来るものは拒まずの精神で味方を増やし続けた結果、味方の中に敵を招き入れることになった』


 かつて蛮族の長であったレベリオン王国初代国王ニールが流れ者として集落を乗っ取るために入りこんできたように、ミドガルズ王国からも敵が入り込んできた。


『ヘラ・セルペンテ。ミドガルズオルムが人間の肉体に自身の魂を入れ込んだ存在よ』

「なっ……!」


 世界樹の巫女を守る役目を与えられた原初の魔法使い〝守護者〟。

 その守護者の家系の始祖がミドガルズオルムだったのだ。

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