第42話 宣戦布告
校外演習の一件が片付き、学園には一時的に平穏が戻ってきていた。
幻竜であるライザルクを討伐したことで、ブレイブの評価は鰻登り。
対するスタンフォードはというと、そこまで変わっていなかった。
スタンフォードの奮闘によって生徒への被害は最小限に抑えられた。
ライザルクもスタンフォードがいなければ、ブレイブ単独で討伐は不可能だっただろう。
しかし、今までの評判の悪さも相まって、スタンフォードの活躍はブレイブの輝かしい功績の前に霞んでしまっていたのだ。
結局のところ、周囲からの信頼というものは日頃の積み重ねが大切なのだ。
「よう、スタンフォード!」
そんな中でも、変わったこともあった。
「今日の放課後、一緒に鍛錬しないか!」
「悪いけど、今日は用事があるんだ。またにしてくれ」
「何だよ、連れないなぁ」
教室内でブレイブがやたらとスタンフォードに話しかけてくるようになったのだ。
そんな彼をスタンフォードの元へとやってきたセタリアがやんわりと諫める。
「ブレイブ。あまり殿下を困らせてはいけませんよ」
「……リアも大変だな」
すっかりブレイブのストッパー役という立ち位置になったセタリアに、スタンフォードは同情する。
特にブレイブの原作ヒロイン組とはまだ打ち解けていない時期でもあるため、これからはもっと心労が重なることになる。
「本当、苦労するだろうなぁ……」
「……殿下、何故可哀そうなものを見る目で私を見ているのですか?」
セタリアは怪訝な表情を浮かべながらも、何故か悪寒がして身震いした。
そんなセタリアは一旦置いておき、スタンフォードはブレイブに提案をする。
「ブレイブ、今日は無理だが鍛錬ついでに今度いい鍛冶師を紹介するよ。市販の剣じゃ、君の滅竜剣に耐えられないだろうしね」
「いいのか!?」
ブレイブの使用していた剣はライザルク戦で砕け散った。
現在、授業では学園から貸し出された剣を使用しているブレイブだが、今後も竜との戦闘は続く。
毎回、スタンフォードが剣を貸すわけにもいかないので、いっそのこと最初から強力な魔剣を持たせた方が良いという判断だった。
原作でも、主人公はドロップしたアイテムと稼いだ金銭で装備を整えていく。
装備も主人公の強さを構成する重要な要素なのだ。
「ことあるごとに僕の剣を貸したくないからね」
「ありがとな!」
「それじゃ、僕はこれで」
以前よりも良好になったブレイブとの関係に苦笑しながらスタンフォードは教室を後にした。
荷物を持って教室を出ると、そこには待ち構えていたかのようにヨハンが立っていた。
「やあ、スタンフォード殿下。奇遇ですね」
「毎度毎度、待ち伏せするように立っているのは何なんだ」
「あはは、いいじゃありませんか」
スタンフォードは内心で警戒しながらも、表面上はいつもと変わらぬ調子でヨハンとの会話を続ける。
「で、今日は何の用だ?」
「いえ、お体の方はいかがかと思いまして」
「ライザルクにこっぴどくやられたとはいえ、ラクーナ先輩が治癒魔法をかけてくれたおかげでこの通りさ」
スタンフォードは腕を大きく回して怪我が完治していることをアピールした。
それを見たヨハンは大袈裟に安心した素振りを見せる。
「それは良かった! 三日間も目を覚まさなかったと聞いて心配していたんですよ?」
「そいつは悪かったね」
「相変わらず世界樹の巫女の末裔様の光魔法は規格外ですね」
「まったくだ」
二人して上辺だけの会話に興じる。
スタンフォードもヨハンも分かっている。
こんな会話に意味などない。
しばしの間、お互いに無駄な時間を過ごしていると、ヨハンが口火を切った。
「しかし、此度の殿下のご活躍。周囲の連中はあまり理解していないみたいで残念です。殿下は命を賭してライザルクと戦い、見事ブレイブがライザルクを討伐する手助けをしたというのに」
ヨハンは大仰な動作で残念そうにスタンフォードの評価が変わっていないことを嘆く。
一見すれば煽っているようにも聞こえるその言葉に、スタンフォードは笑顔を浮かべて答える。
「言わせておけばいいさ。今までの愚行を考えれば妥当な評価だ」
強がりでも何でもなく、本心からでた謙虚な言葉にヨハンは初めて飄々とした態度を崩して怪訝な表情を浮かべた。
してやったりという表情でスタンフォードはヨハンを真っ直ぐに見据える。
「ヨハン、一つだけ言っておく」
そこで言葉を区切ると、スタンフォードは決意を込めて告げる。
「僕は負けない」
「……ブレイブに、でしょうか?」
「自分に、だ」
それは今まで嫌なことから逃げ続け、無様を晒してきた自分自身への宣戦布告だった。
ヨハンへとスタンフォードは堂々と自身の決意を語る。
「僕はこれから王族としては目も当てられないような無様を何度も晒すことになるだろう。だけど、何度だって立ち上がってやる。だから、安心してブレイブなんかに現を抜かしていればいいさ」
一方的にそう告げると、スタンフォードは外套をはためかせて去っていくのであった。
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