第38話 運命のライザルク戦 後編

 もはやこのイベントでの勝利は確定した。

 そう思ったのも束の間のことだった。


「くそっ!」


 ブレイブは予想以上に苦戦していた。

 ライザルクから放たれる広範囲の電撃。

 それを浴びるたびにブレイブは動きを封じられてしまっていたのだ。

 何とか電撃をかいくぐってライザルクに接近しても、光魔法が集中して発動できず、先程腕を切り飛ばしたときのような威力がでない。

 ポンデローザはその光景に見覚えがあった。


「ゲームで苦戦してたときみたい……」


 原作でのライザルク戦で、プレイヤーは周囲に放たれる電撃に苦戦することが多かった。

 目の前でライザルクと戦っているブレイブはまさに、プレイヤーがライザルクに苦戦している光景そのものだった。


「しまった、剣が……!」


 ブレイブの剣にヒビが入る。

 ブレイブの使用している剣は、学園街で販売しているごく普通の剣だ。

 質こそ悪くはないが、使い手であるブレイブがあまりにも規格外過ぎて、とうとう限界が来てしまっていたのだ。

 あと一回でも滅竜剣を発動させれば、ブレイブの剣は折れるだろう。

 状況は再び絶体絶命となった。


「僕の、せいだ……」


 スタンフォードは震えるように呟く。


「僕が、ブレイブの踏み台になりたくないからって、一緒に鍛錬をしなかったからブレイブは苦戦しているんだ」


 ブレイブが苦戦しているのは、スタンフォードが彼との鍛錬を避けたから。

 そのことに気がついたスタンフォードは、血が滲むほどに拳を握りしめて立ち上がった。


「また安静にしてなきゃダメよ!」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。自分のケツは自分で拭く!」


 スタンフォードはポンデローザの制止を振り切ると、再びライザルクの元へと向かう。


「ブルルァ!」


 一際強力な電撃がブレイブへと放たれる。

 しかし、その電撃はブレイブに当たる直前に大きく軌道を変えた。


「スタンフォード?」


 ブレイブが不思議そうに横を見ると、そこには左手を掲げて電撃を吸収しているスタンフォードの姿があった。


「ドラゴニル、雷は僕が引き受ける。振り向かずに突っ込め!」

「わかった!」


 スタンフォードと鍛錬をしなかった影響でブレイブが雷を躱せないのならば、自分が雷を引き受ければいい。

 そう結論づけたスタンフォードは飛んでくる全ての電撃を自分の元へと引き寄せる。

 ブレイブは高速でライザルクへと接近すると、滅竜剣を発動させた。


「〝滅竜穿牙めつりゅうせんが!!!〟」


 光を纏った高速の突き。

 ブレイブが放った滅竜剣は、ライザルクの胴体を掠めただけだった。


「ブルァァァ!」

「ぐっ、あ……!?」


 致命傷を与えられなかったことで、ブレイブはライザルクの電撃を纏った腕による薙ぎ払い攻撃をまともに受けてしまう。

 地面に叩き付けられ、体が跳ね上がる。


「ちく、しょう……」


 そのまま地面に倒れ伏したブレイブは意識を手放しそうになる。

 剣も限界を迎え砕けてしまった。


 もう無理だ、これじゃあ戦えない。


 ブレイブが諦めようとしたとき、強烈な光がライザルクの元へと放たれた。


「〝雷神砲トールガン!!!〟」

「ブルルァ!?」


 スタンフォードはブレイブの折れた刃を両手で持ち、レールガンの要領で放ったのだ。


「はっ、電撃は効かないと思って油断したな……レールガンは実弾なんだよ!」


 地面に這いつくばるブレイブの目に飛びこんできたのは、自分よりもボロボロになっても戦い続けるスタンフォードの姿だった。

 その姿を見て、ブレイブの瞳に光が蘇る。

 俺は何をしてるんだ。一番苦しいのはスタンフォードじゃないか。


「俺だって……まだ戦える!」


 気力を振り絞ってブレイブが立ち上がる。


「折れた剣でも、まだ滅竜剣は出せる!」


 ブレイブは全力で魔力を注ぎ込む。

 すると、折れた刃から光が伸びて刃を形成した。


「遅いお目覚めだね。何ならそのまま寝てても良かったんだよ?」

「はっ、言ってろ」


 軽口を叩き合うと、二人は横に並んで剣を構えた。


「ぶった切る!」


 ブレイブは再びライザルクへと剣を構えて突っ込む。

 追い詰めているはずなのに、何度も立ち上がる。

 その姿に恐怖を覚えたライザルクは頭上の積乱雲に向かって電撃を放った。

 ライザルクから電撃を吸収した雷雲は無差別に雷を落とした。

 広範囲に渡り落雷を振りまく積乱雲に、ブレイブの動きが止まる。

 積乱雲を放置すれば、ポンデローザだけではない。森にいる他の生徒達にまで被害が及ぶ。

 そうして迷っている間に、とうとうブレイブの滅竜剣に耐えきれなくなった折れた剣が完全に砕け散る。


「くそっ、どうすれば……!」

「ドラゴニル、受け取れ!」


 スタンフォードは躊躇なく、自分の魔剣をブレイブへと投げ渡した。


「言っただろ、雷は僕が引き受けるってな」

「っ! ……ああ、わかった!」


 スタンフォードは両手を掲げて落雷を全て自分の元へと吸い寄せる。


「〝避雷針ひらいしん!!!〟」


 膨大な量の雷がスタンフォード目掛けて落ちる。

 スタンフォードは雷魔法を体内に宿す影響で電撃の類いには耐性がある。

 しかし、その量には限度があった。


「ぐ、あぁぁぁぁぁ!?」


 限界を超えた量の雷が体内からスタンフォードを焼く。

 口や目から血を零しながらも、スタンフォードは必死に雷を吸収し続ける。


「こう、なったら……!」


 スタンフォードは体内の魔力を一瞬にして空にする。

 魔導士にとって魔力は第二の血液のようなもので、空になれば当然命に係わる。

 一歩間違えれば死に直結する行為をスタンフォードは躊躇なく行った。


 ――今はただブレイブが敵を倒すための踏み台になればいい。


 絶対にライザルクを倒すという決意を宿したスタンフォードはブレイブに向かって叫んだ。




「ブレイブ、ブチかませぇぇぇ!」




「任せろ! 〝滅竜聖剣めつりゅうせいけん!!!〟」

「ブルァァァァァ!?」


 スタンフォードから受け取った魔剣ルナ・ファイはブレイブの膨大な魔力を吸収し、天を突き抜けるほどの光の刃を生み出す。

 ブレイブ渾身の一撃は上空の積乱雲ごとライザルクを真っ二つに切り裂いた。

 全ての力を使い切ったスタンフォードは、力なく仰向けに倒れる。


「はは、はははっ……」


 意識を失う直前、眼前に広がる青空を眺めながら、スタンフォードは笑みを零した。


「僕達の、勝ちだ……!」


 そう宣言すると、スタンフォードはゆっくりと意識を手放すのだった。

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