第25話 運命の組み分け発表
校外演習でのグループ分けが発表された。
スタンフォードとしては、ここが運命の分かれ道となる大事な組み分けだ。
四人一組で行われるこの演習では、原作ではスタンフォードとヨハンが同じグループになる予定だった。
張り出された組み分け表には、原作とは違う組み合わせが記載されていた。
[KING:スタンフォード・クリエニーラ・レベリオン ジャッチ・ボーギャック ガーデル・ウィンス ステイシー・ルドエ][監督生:ルーファス・ウル・リュコス]
[QUEEN:セタリア・ヘラ・セルペンテ ムロハル・ケモーラ カーヤ・ノソル マチルダ・ナンバーズ][監督生:マーガレット・ラクーナ]
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[JOKER:ヨハン・ルガンド リザーナ・カッテイル ニッカ・ベガ ヒューズ・ピラーマン][監督生:ポンデローザ・ムジーナ・ヴォルペ]
組み分け表には、それぞれ一年生を四人一組に振り分けた内訳とそれぞれの組に着く監督生が記載されていた。
「……ヨハンとは一緒じゃないみたいだな」
ポンデローザの話では、スタンフォードはヨハンと同じグループになる予定だった。
そうなると、ヨハンか自分のいる組の近くにライザルクが現れる可能性が高い。
ポンデローザもその可能性を考慮して、ヨハンのいる組の監督生としているのだとスタンフォードは納得した。
ちなみに、ブレイブの組はセタリアとブレイブの妹を除く原作ヒロイン達で固まっていた。
「あ、あの、スタンフォード殿下」
「ん、ルドエか」
スタンフォードが組み分け表の前で神妙な面持ちのまま立ち止まっていると、ステイシーが遠慮がちに声をかけた。
「同じ組ですね。当日は宜しくお願い致します」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
一見するとそっけない態度に見えるが、その実スタンフォードは内心では小躍りするほど喜んでいた。
同じ組だからってわざわざ声をかけてくれるなんていい奴じゃないか!
悲しいことにスタンフォードは同級生との会話に飢えていた。
「演習といえど、油断していれば命に係わる。できればルドエの魔法を教えてくれないか?」
「私は土属性の硬化魔法を使います。あの、そこまで強くないのであまりお役に立てないとは思います」
硬化魔法は魔力消費が少なく、土属性の魔力を持つものが最初に覚える魔法でもある。
自身の肉体を岩肌のように硬化させることで、防御力を上げるこの魔法は上級者になれば使用する者は減っていく。
なぜなら、自身の肉体を硬化させるよりもより頑強な土の壁を生み出した方が安全だからである。
逆に言えば、硬化魔法をいつまでも使っている者は、土魔法の使い手としては三流ということになるのだ。
「でも、いざというときに盾になるくらいはできます!」
「いや、しないよ」
「でも、それくらいでしかお役に立てないかと……」
ステイシーは俯いて制服の裾を掴む。
スタンフォードもステイシーのことは良く知らない。
今まで周囲を自分を引き立たせるモブキャラクターとして見ていたスタンフォードは、改めて周囲の人間を知る努力をすることにした。
「どうしてそんなに自信がないんだ?」
「本来なら私がこの学園にいるのも奇跡のようなものなんです」
ステイシーは自嘲するように語り出す。
「ルドエ家は元々牧場を経営していた一族なんです。それで偶然牛の病気から流行り病の特効薬を作ることに成功して、流行り病を防いだ功績を認められて貴族になったんです。本来なら貴族としての血が薄いルドエ家の人間に魔法が発現することなんてなかったのですが、たまたま私には土属性の魔法適正があったので、この学園に通えることになったんです」
スタンフォードは記憶を辿り、平民から貴族になった者を思い出そうとする。
しかし、昔のスタンフォードは自分が関わることになるであろう名家の貴族しか覚えておらず、何度思い出そうとしてもルドエ家は紅茶の銘柄というイメージしかなかった。
「何か、物語の主人公みたいだな」
「そんなことないですよ。物語の主人公みたいな人はドラゴニル君のような人のことを言うんです」
「それは……そうだな」
またブレイブか。
反射的に顔を顰めそうになるのをぐっと堪える。
「そういえば、前から気になってたんだが、どうして生徒会室で俺に味方するようなことを言ってくれたんだ?」
スタンフォードは話題を変えるため、生徒会室での一件のことについてステイシーに尋ねる。
あの一件はスタンフォードの不注意が招いたことだ。
それなのに被害者であるステイシーはスタンフォードに対して恨んでいるような素振りは一切なかった。
「えっ、だって事実ですし」
「いや、でもルドエは被害者だろ。どうして俺を庇うようなことを言ってくれたのか気がかりでな……」
スタンフォードは周囲から嫌われている。
それは態度や普段の行いが原因だ。
名前を聞いただけでも決して良い印象を受けないであろう彼を庇うなど、まずあり得ないことだった。
そんなスタンフォードに対して、ステイシーは苦笑しながら語りだした。
「私、才能がない分努力しなきゃと思って、鍛錬場には結構通っているんです。ですから入出記録表で、殿下が遅くまで鍛練場で努力していたことは知っていたんです」
ステイシーには魔法の才能がない。
魔力量も質も他の生徒には劣る以上、周囲よりも努力しなければいけなかった。
そこで知ったのが才能がありながらも、努力をしているこの国の第二王子の存在だった。
「失礼ながら、そのときは殿下のお顔は知りませんでしたし、悪い噂だけは知っていました。きっと怖い人なんだろうと思ってはいましたが、それでもあなたの実力が才能だけではない。努力の上にもあるものだとも知っていました」
「ルドエ……」
「ですから、魔法の鍛錬に夢中になって周りが見えなくなるほど集中していたのならば、それはわざとではない。ただそのことを理解していたから、生徒会室ではああ言っただけなんです」
スタンフォードはステイシーの言葉にどこか救われた気分になった。
周囲から嫌われて自業自得とはいえ、偏見で見られることの多い自分を真っ直ぐに見ていてくれた。
その事実に胸が熱くなるのを感じたのだ。
あまりの優しさに涙が浮かびそうになるのを誤魔化して、スタンフォードは会話を続ける。
「そ、そうか、ありがとな。ところで、卒業後はどうするんだ?」
「家に帰って家督を継ぐ予定です。両親からはできるだけいろんな家の人との人脈を作っておいた方がいいと期待はされていますが、こんな成り上がり貴族の相手なんて誰もしてくれませんから」
ステイシーは入学してから、他の貴族達から相手にされず周囲からは孤立していた。
成績も飛びぬけて良いわけでもなく、魔力にも恵まれなかった。
マーガレットのように疎まれることはことはなかったが、ステイシーはクラスの中でも影が薄かった。
そのため友人らしい友人もおらず、ステイシーはただ領地に帰った後に役に立てるようにと、勉強をするだけの毎日を送っていたのだ。
「じゃあ、目標達成だな」
「ほえ?」
予想外のスタンフォードの言葉に、ステイシーは間抜けな声を漏らす。
「熱中症のときと生徒会室での恩もある。困ったときは頼ってくれ」
「殿下……!」
「スタンフォードでいい。僕も周囲からは孤立しがちだからな。同学年の友人に憧れていたんだ」
「では、私のこともステイシーと呼んでください!」
「ああ、これからよろしくな。ステイシー」
勢いよくステイシーが頭を下げる。
反動で頭を上げた際に、前髪で隠れていた彼女の素顔が露わになる。
その表情は、普段の根暗さが嘘のように輝いていたのだった。
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