不安な眠り

 キモモチの処分を先送りにしたユノアは、一気にやる気を落とし、今日はもういい、と決めた。

 戦闘や掃除でまた汚れた身体を洗い流すべく、ルミルと共にシャワールームへ訪れる。

「足、大丈夫?」

「少しみますが、大丈夫です」

「やっぱり抱っこした方が……」

「いえいえ、そこまでは!」

 冗談半分での提案だったのだが、ルミルは大真面目に遠慮する。可愛いな、と思いながら、ユノアもやんわりと痛みが残る身体を洗っていく。

 そうして、熱湯の温もり全身に受け、心地よさに浸っていると、緩やかに思考が鈍るのを感じ、ユノアは欠伸あくびをかいた。

「ユノア様、お疲れですか?」

 それなりに大きな欠伸だった為、隣でシャワーを浴びていたルミルが心配そうに声を掛ける。

「うん、さすがにちょっとね。朝から森を出て、この船を見つけて、あれよあれよだったから」

 大雑把に返して、ユノアはまた欠伸をかく。

「シャワーを出たら、すぐにお休みになりますか?」

「そうだね。あ、でも、ルミルの包帯、濡れちゃってるし」

「もう回復しましたし、自分で出来ます」

 気丈な顔を向けるルミルに頼もしさを感じ、ユノアは甘えたい気持ちに支配された。

「それじゃあ、うん、寝させてもらう」

 言って、ユノアはシャワーを止め、タオルを身体に巻く。

「何かあったら遠慮なく起こしてね。あと、ルミルも好きなタイミングで寝ていいから」

「はい。明日は、周囲の探索ですね」

「うん。それじゃあ、おやすみ」

「おやすみなさいませ」

 恭しく一礼してルミルはユノアを見送る。

 脱衣所にてバスローブを纏い、ドライヤーで適当に髪を乾かすと、バスローブを脱ぎ捨てる。

 次いで、手にしたのは衣装部屋にあったパジャマだ。

 馴染み深いモコモコとした質感の白い服を、ユノアはのそのそと着用し、使用したタオルとバスローブを、ドレスの入った洗濯カゴの中に放り込む。

 洗濯物をまとめたカゴを抱え、ユノアはランドリールームへと移動した。

 部屋の中央にあるベンチにカゴを置くと、明日ちゃんとやるから、と誰に誓う訳でもなく宣誓し、その場を後にする。

 再び大きな欠伸をかきながら歩き、やがて個室が並ぶ通路に辿り着く。

 特に部屋割りは決めていないので、ユノアは目についた手近な扉に手を掛ける。

 中はテレビが無い事を除けば、ビジネスホテルさながらの質素な内装だ。

 やはりベッドが少し乱れているが、ユノアは気にせず、掛け布団だけ戻して、その中に身体を包み込み、本能のままにまぶたを閉じた。

 眠気はピークに近付き、ユノアは気持ちよく眠れそうだとぼんやり思った。

 そこでふと、ユノアはまた気がかりな事を思い出す。

 ここで眠った後、恐らく元の世界に戻るのだろう。

 そうしたら、今あるこの身体はどうなるのか?いつ目覚めるのか?ルミルはここに残されてしまうのか?

 そうした疑問と共に不安を覚えるが、ユノアは杞憂きゆうになりそうだとも考える。

 この世界での自分は、きっとまだ終わらない。

 終わり、というのがどんな事なのかは大概分からないが、確信に近い感覚が、ユノアの中に生まれる。

 きっと続いていく。そうでなければ、まだ自分がこの世界に来た意味が分からない。

 沈む太陽のように、高揚感も微睡まどろみの中に吸い込まれる。

 翌日のイベントを楽しみに待つ子供のように、ユノアはぷつりと眠り落ちた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る