型抜き
「ねね。お姉ちゃん。これやったことある?」
広い堤防を適当に歩いて、端っこまで歩いてきたくらいだろうか。
型抜き屋が目に入り私は足を止め、お姉ちゃんに問いかけた。
「やったことないよ」
「じゃあやろうよ! 私、めっちゃ得意なんだ!」
そのお店を見て、私はその存在を思い出す。
私の毎年の恒例といえばこれだった。
100円を払い型抜きを成功させ、そして報酬の1000円を持って帰る。
小遣いの足しにもなって、楽しいし、型抜きって最高の屋台だと思う。
私はお姉ちゃんが頷いたのを確認して、やったと呟きながら、店員のおじさんへ食い気味に言う。
「型抜き二人分!」
※※※※※※※
木の机と木の椅子がある場所へ腰を下ろす。
さっきまで何人かいたようだけど、今は私たちの貸し切り状態のようだ。
型抜きの後で若干汚れた机の上のクズを、パッパッと適当に地面に落とす。
貰ったのはキリンの輪郭がなぞられたクッキーみたいなの。
結構難しそうだけど、まぁ私にとっては簡単。多分。
浴衣の袖をまくり、「よし」と気合を入れて私は、型抜き専用の針を手に取る。
「ねぇねぇ。てんちゃん」
「ん? どーしたの?」
いざ始めようとしたのだが、横に座ったお姉ちゃんにそれを阻まれる。
「これって、どういう遊び?」
「あ。そっか。……えっとね。うーん。型を抜き抜きする遊び!」
「まんま」
「本当にこれ以上の説明のしようがないと言いますか。……とりあえず、私を見てたら分かるよ。……まずね。この針で輪郭を削っていくの」
と、お手本を見せるように、自分で言うのもなんだけど器用に型を抜いてゆく。
「それで、いいとこまできたら、ペキって折るの。……こんな感じ!」
四分の一ほど削れた板を、お姉ちゃんに見せつける。
「おー」と言って、多分感心してくれたようだ。
「はい! お姉ちゃんもやってみなよ」
「わ、わかった。簡単そうだし、私にもできそう」
「おー? 型抜きを舐めない方がいいぞよ。案外簡単にペキって──」
──ペキっ!
「いや、はや!」
針を持ったまま固まるお姉ちゃん。
「うっ。うぅ……」
「おぉ。泣かないで」
「これは私には無理。てんちゃんを見守る」
諦め早いな。
「はーい」
「よーし。頑張るぞー」
向き直って、私は再開した。
さくさく。さくさく。
型抜き屋って、優しい店員が大体なんだけど。
いちゃもんつけてくる店員もいるからなー。
ちゃんとずれないようにしないとね。
さくさく。さくさく。
キリンが半分くらい姿を現してきた。
ペキペキ。といらない部分を丁寧におる。
よし。もう少し。
さくさく。さくさく。
この頭のところが、すごく繊細な技術を要求される。
が、型抜き名人の私にとってこれは朝飯前。……朝飯くらいは食べたいので、朝飯後かな。
「よし。もう少し」
あと四分の一くらいだった。
それをまじまじと眺めていたお姉ちゃんが感嘆の声をあげる。
「おぉ。すごい」
「すごいでしょー。あと少しだね」
あとはキリンの首の真っ直ぐとした部分だけ。
さくさく。さくさく。
……。
いよーし!
「できたー!」
超綺麗なキリンが完成した。
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