どうやって、振ればいい?

 この日は今まで一番、授業に集中できなかった日かもしれない。

 どうやって振ろう、どうやって振ろう。

 それを頭の中でずっと考えていた。

 おかげで、時間が進むのはえらい早く感じたけれど。


 それでも、給食の時間にたまに話しかけてくる藤崎さんの様子は、今まで何ら変わりのない様子だった。

 もしかして、私が見たということに気づいていないのか。


 てんちゃんに相談するべきか。しないべきか。

 もし仮に相談したら、今でさえきつい藤崎さんに対する視線が、さらにきついものになりそう……。

 うん。だからやめておこう。


 そんな考え事をしながら歩く帰り道。

 右にてんちゃん。

 今日は手を繋げない。

 雨のせいで傘を持っているから、手が塞がっている。

 でも、今日は手を繋げなくてよかった。

 私の様子が、いつもと変なのが察せられたら困るから。


 ポツポツ。

 その雨音が私の思考に入り込んで、帰り道では特に何も思いつかなかった。

 余計なことばかりを考えて、考えた気になっているだけだった。


 てんちゃんもどこか俯きがちに歩いていて、雨が好きじゃないのかな。

 一つも会話をしない。してくれない。

 私も他のことが優先してしまって、てんちゃんのことが第一に意識できなかった。



※※※※※※



「はぁ。どうしよ」


 私は、少し濡れた体を温めるために、シャワーを浴びる。

 そのジャーというやかましい音に紛れるように、呟いた。


 本当に。

 こんなのは初めての経験だった。

 でも、好意を持たれるのが嫌だというわけではないのだ。

 ただ。私はてんちゃんが好きだから。他の誰かを好きになれない。


 多分、こんなことになったのは私のせい。

 私が藤崎さんに話しかけられて、それに話し返してしまったから。だと思う。

 ……そんな仲の良い会話をした覚えはないが。


 自分のことは自分で解決しないといけない。というのは分かっているけれど。

 どうも解決案が浮かばない。


 ……振ればいいのは分かってる。

 なんて振ればいいのか思いつかない。


 思ったけど、中学生で告白なんて早すぎないか。

 人のこと言える立場ではないけど。

 藤崎さんはあれか。思春期というやつ?

 私のどこが好きなのだろう。

 顔? それに関しては、私なんかよりてんちゃんの方が優れているし。

 第一、藤崎さんは友達が多いっぽい。

 よく色んな人に話しかけて、話しかけられている。

 ……私のことを好きになる理由が、ミリも見当たらない。


「うげー」


 ぼーっとしていたら。

 シャワーだけでのぼせそうになったので、私は風呂を出る。

 長い髪を時間をかけてドライヤーで乾かして、私は部屋に戻った。


 戻った。

 戻ったのだけれど。

 そこには、電気も付いていない暗い部屋で、どこか神妙な面持ちのてんちゃんが正座していた。


 こっちを見つめる。

 何を考えているのか、分からない。けど。

 最悪な可能性が私の頭をよぎる。

 手紙がバレていたらどうしよう。そういう可能性だ。

 別に、ばれたからって言い訳すればいいのだろう。

 いいのだろうけど、私がてんちゃんにこのことを言わなかったというのは、多少なりとも意味が出る。


「えっと──」


 私が発言しようとしたら、てんちゃんがそれに割り込むように。


「なんか、隠してることない?」


 開口一番が、それだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る