四日目の夜で、エピローグ

 夜の十時。もう消灯時間だ。

 てんちゃんは風呂に入って、再び私の部屋へと訪れた。

 ……私はお風呂に入ってない。

 だって親がいるから。

 あまり顔を会わせたくない。


 ちょっと自分の髪の匂いを嗅いでみる。


 ──くんくん。


 うん。まぁ大丈夫だろう。

 臭くはない。


「みっちゃん。なんか。お布団せまいね」


 なんてことをしていたら、私の横で寝ているてんちゃんが話しかけてきた。

 たしかに肩と肩が引っ付きそうな距離で、ちょっと狭い。

 でも、悪くない。むしろ良い。


「うん。……てんちゃんは寝相良い?」

「あまり良くない!」

「じゃあ、壁側きなよ」

「あ、うん。……じゃあ、みっちゃんまずベッドから降り──ぎゃっ」


 てんちゃんに抱き着く。


「てんちゃんも」

「えっ。うん。じゃあ、ぎゅー」


 てんちゃんは困惑した様子で、私に手をまわす。

 私は、抱きついたまま壁の方に体を回して、場所を入れ替えた。

 ……ちょっと重かった。


「これで入れ替わった」

「……強引すぎないっすか。壁に打ち付けられたんだけど」


 やってから気づいたけど、自分でも強引だったと思う。

 ただ、ハグする口実にしたかっただけ。

 できたから私は満足だ。うん。


「アニメで見て、こういうのやってみたかった」

「それ危ないアニメじゃないよね?」

「違う。深夜二時からやってる健全なアニメ」

「多分それ不健全」

「……そう? でも、てんちゃんも、ベッドの上でゴロンするやつ知ってるんだ」

「え、えぇまぁ! 私は大人な女性ですから!」

「……それ、なんか聞き覚えが。まぁいいか。よくないけど」


 ……。沈黙が訪れる。

 天井を見上げてみる。

 なんだか、隣でてんちゃんが寝ているっていうのは、不思議な感覚にとらわれる。


 なんというか、今のこの時間は現実的ではない。

 何言ってるんだろうって、自分でも思うけど。

 今の時間だけ、自分のものになっているというか。

 彼女……というか。

 そういう感じ。


 抱きついてみようかな。なんて思うけど、嫌がられたら自分も嫌なので、ここは抑えることにした。

 てんちゃんが寝たら、キスしてもいいかな。とか思ってしまう。

 でも、ファーストキスは互いに認識してしたいかな。

 だから、不意打ちみたいなキスはしない。そうしよう。


 私たちが、マウストゥマウスでキスをする日は来るのだろうか。

 ……いつか、きてほしいな。

 てんちゃんにその気は無いと思うけど。

 もしその日が来たら、嬉しすぎて昇天する思いになって、きっと私の命日になるだろう。

 ならない? いや、なる。それくらい好きだから。


 ……にしても。

 やけに静かだ。


「てんちゃん……なんか話そうよ」

「……ん」


「あ、起きてた」

「うん。でも、眠いよー」


「分かった。じゃあ、おやすみ」

「あれ。意外と納得してくれた。……じゃあ、おやすみなさい」


 せっかく。二人で寝ることになったのに、何も起こらない。

 まぁ。起こることの方が珍しいんだろうけど。

 何かを期待している私は、少女漫画の読みすぎかもしれない。

 ……一緒に寝れただけでもいいっか。


 そう納得する。

 私も、眠くなってきたかな。

 明日から、どうしよう。

 てんちゃんと離れたくない。


 ……学校か。


 もう。私の周りは以前の暗さがない。色を帯びている。

 てんちゃんが照らして、色付けてくれたから。

 だから、学校に行くっていうのも、別にいいのかなって。

 てんちゃんに、ずっと一緒にいてもらおう。

 そう思った。


「てんちゃん。おやすみ。大好きだよ」



※※※※※※



 みっちゃん、寝たかな?


 今日は、いろいろとヤバかった。

 キスとか。……あの時は、「キスはちゅー」とかって強がっちゃったけど。

 本当に危なかった。

 十分くらい、私の頭をつかんで離さないんだよ、みっちゃん。

 とにかくえろかった。


 ……はぁ。大好き。みっちゃん。


 多分、こう思ってしまうのは、深夜テンションみたいな。

 謎の魔法にかかってるからだと思う。

 

 ……しかし。最後の「大好きだよ」は結構くるものがある。

 あの場で悶え死にそうになってしまった。

 今度は、私が寝たふりか……。

 なんで寝たふりなんかしたんだろ。


 まぁ。こうするからだけど。


 私の唇が、みっちゃんの柔らかなほっぺに触れた。

 少し、カサカサってする肌を、舌で舐めてみる。

 確かに、する側もいいな。


 これは夕方の、お返し。


「みっちゃん。明日からは、お姉ちゃんだからね」

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