お風呂へ

 お姉ちゃんが、風呂を上がるまでの時間、暇だったので用意されていた朝ごはんの食パンを食べながらテレビを見ていた。

 その場に、風呂上がりのお姉ちゃんが、バスタオルで髪を拭き拭きしながらやってきた。


「てんちゃん。ただいま上がりました」

「早かったね」


 長いロングの髪の毛は、濡れている。今からドライヤーをかけるのだろう。

 水で髪が纏まって、一本の太い線が無数に伸びてるようにも見えた。

 さっぱりしたおかげか、昨日よりも爽やかに見える。

 その姿を、ちょっとかっこいいなって思ってしまった。


「てんちゃん。その。……さっきは裸を見られてしまって、気が動転してしまって言えなかったのですが──」

「いや、あれはごめん。私も中を確認せずに──」

「私の裸の感想を教えて」


 おい。「ごめんなさい」じゃないのかよ。

 そう言葉に出そうなのをギリギリのところで飲み込む。


「えっとー。なんで?」

「言って欲しいから」

「お綺麗でしたよー」

「てきとーだね。もう知らない。さよなら」


 お姉ちゃんは私に踵を返した。

 いじけたのか。なんなのか。

 こんなキャラなのか、今のこの人は。


「わかったから! ちゃんと言うから!」

「ん」

「えっとー」


 いざ、言おうとすると恥ずかしい。

 あの光景は、しっかりと思いだせる。

 だけど、そんな詳細に言っても、キモく思われるだろうから。

 見たままの感想を言うことにする。


「まぁ、出るところは出て、引き締まるところは引き締まるっていうのかな。まぁ、とにかくスタイルは良かったよ」

「うわ。てんちゃん、そんなに私の体をまじまじと見ていたんだね」

「ほら! やっぱキモいって思われてる!」

「ふふ。冗談ですよ。ありがとうてんちゃん」


 その笑顔は昨日より柔らかい。

 ややスキップ気味に、またどこかに行った。

 まぁ、髪乾かすんだから、脱衣所に戻ったのかな。


 ソファーから立ち上がり、私も向かう。

 ゴオォという、まぁまぁうるさいドライヤーの音を耳に受けながら、脱衣所の引き戸を開ける。

 手鏡を見ていたお姉ちゃんは、ちらっとこっちを見るが、すぐに向き直す。

 髪を乾かすのに集中しているみたいだ。


「んっしょ」


 スカートを脱ぎ、ブラウスを脱ぐ。

 お姉ちゃんに見られると思ったけど、視線は感じない。

 若干の期待外れ感……期待外れは違うな。

 予想外れ感を抱きながら、下着も脱いだ。

 多分洗濯した方がいいよね、とドラム式洗濯機に放り込む。


「じゃ、行ってくるねー」


 ドライヤーの音で私の声はかき消された。

 お姉ちゃんの反応はやはりない。



※※※※※※



 昨日から私は、てんちゃんに勢いで物を言っている気がする。

 私はこんなに積極的な人ではない。ちょっと私も変かもしれない。


 にしても、脱衣所にためらいもなく入ってきたのには驚いた。

 それで、着替え始めるとか、警戒心というものはてんちゃんには無いのか。

 まぁ、私が見てなかったと安心したからかもだけど。


 私は、手鏡越しのてんちゃんに目が釘付けだった。

 肌、白かった。体も、ふわふわというか、触ってみたい。


 こう思うのは変態?

 頭の中で、そう問うて、違う違うと首をブルンブルン振る。

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