014.どこにしよう?
「ねぇ、夏休みみんなで遊びに行くならどこ行く?」
7月上旬の昼休み。学食を食べているときに峰岸さんが放った一言。それがとある論争を引き起こすことになってしまった。
「「それはもちろん……」」
「山だ!」
「海だ!」
「「今なんて言った!?」」
僕の隣に座っていた恵介は立ち上がりながら山を宣言。それに対して僕の目の前に座っていた高畠さん……遥は海だと言いながら起立し、お互いの主張に対しての論争を開始してしまった。
「夏の山なんて虫多いじゃん! 虫刺されを考慮したら海だよ!」
「いーや、夏の海は混んでなんもできん! 海の家で泣く泣くアイス食って帰るくらいなら山行くべ!」
「夏の思い出は夏祭りと夕日が落ちていく海岸と法律で決まっているじゃないか!」
「それこそ邪道だ! 夏は涼しい山のロッジに泊まり朝は虫取りして昼にBBQして夜は線香花火と肝試しだべ!」
……うーん、確かにどっちも夏の風物詩であってどちらも捨てがたい。毎年夏に我が五十嵐家でも3つに分かれるこの議題の解決は難しいぞ。話を振った峰岸さんも「しまったこいつら過激派じゃん」みたいな顔になってるし。
「翔君、君はもちろん海だよね! 夏のビーチで水着姿の女の子と波打ち際でキャッキャウフフがしたいんだよね!?」
「いや、いくらなんでもそこまでは言ってないんだけど……」
「西岡、お前は山だよな!」
「……夏はクーラー効いた部屋でイベント」
「「それこそ邪道だ!」」
つまり西岡君は夏休みは引きこもりスタイルと。うちのお母さんと一緒じゃないか。とはいえ、小学校の頃あんま海水浴とか行かなかったから行ってみたいんだよねぇ。
たま~に見るけどここの海岸は東京近辺のところより綺麗だし。瀬戸内海だし。
「かくいう峰岸さんはどうなの?」
「私? 私は特にどっち派閥でもないわね。今は安定してるけど持病のせいで激しい運動は制限ついてるし。だからどっちでもいいわ。五十嵐君はどうなの?」
「あー……僕はどっちかというと海かなぁ」
そんなことを話している間も僕たちの頭の上ではヒートアップした二人が目力をバチバチさせて一歩も譲らんという意思を全身に纏い始めた。
「それで、一切議論には参加してない会長はどうなの?」
「うむ、私は中立派だ。気分によって海か山か変わる。それに、私は運動制限は夏休みまでには解除されるだろうからな、どっちでも存分に楽しめる」
「去年の今頃は手術の後のリハビリ三昧だったわね~」
「あのころはプリントをよく届けてもらっていたな」
フフッと笑いあう二人の和やかな雰囲気とは反比例するかのように、恵介と遥もヒートアップしていき、とうとう食堂全体を巻き込み始めた。
「男子諸君、やはり夏は海で水着来た女子とキャッキャウフフして、いい一夏を過ごしたいよねー!}
「「「「おおおおおおおお!!!!!!」」」
「みんな、やっぱ夏と言えば山だよな! 緑色の草木に囲まれて涼しい空気、山頂から見下ろす街、BBQに肝試し、そして綺麗な星空を異性と眺めるということが重要だ、そうだよな!」
「「「そーだそーだ!!」」」
……これ、どうやって収集つけるんだろ。
〇 〇 〇
「と、いうことがあったんだよ」
「ふーん、なかなか面白い学校じゃない」
その日の夜。家では僕と姉さんが食卓を囲んでいた。父さんは自分の担当するプロジェクトの第1段階が大詰めになっているとかで今日は会社に泊まることになっていて、母さんは父さんに弁当を届けに行って留守だ。
特に話すこともなかったので、姉さんに今日学校であったことを話していたらこの話になった。
「ここら辺は山も海もあるからどっち行くかで論争が……」
「そうね……うちのキャンパスは広島市内だから友達と遊びに行くとかだとやっぱ宮島とかじゃない?」
「そこはこの前の試験休みに友達と行ったよ」
「そういえばそんなこと言ってたわね」
最後は死にかけたけど宮島はとても楽しい所だった。またみんなと一緒に行きたい。意外と上四葉から近かったし。一人でゆっくり行くのもありかもしれない。
「姉さん、どっかいいところ知らない?」
「そうねぇ……大学の友達に聞いてあげるわ」
そう言って姉はテーブルに置いてあったスマホを取り出しなにかを打ち込み始めた。
〇 〇 〇
「それで、出てきたのがこの周防大島ってところなんだけど……」
次の日の昼休み。また学食で一緒にご飯を食べていたときに僕がみんなに見せたのは山口県にある周防大島の観光パンフレットのコピーだ。姉さんの友人曰く「瀬戸内海のハワイだから夏に行かないのは損。滅多なことじゃ混まない穴場だし」とのこと。
「う~ん、でも少しだけ遠いね」
「ここからだと2時間くらいだって」
「それにBBQできねぇじゃん」
「浜辺でできるらしいよ。調理器具とか貸してくれるみたいだし」
「グッ……」
上四葉は広島駅から見れば岩国よりに位置してるから往復3時間くらいで行ける。
最悪帰りは新岩国駅から新幹線で広島まで帰ってくればいいし。本州にも近いから恵介たちに万が一があっても……というのもある。
「ふむ……電動自転車のレンタサイクルもあるらしいぞ」
という会長。実は、周防大島はそれ以外もブルーベリー狩りとか船釣り、シーカヤックとかのレジャーも楽しめるのだ。まさに瀬戸内海に浮かぶ楽園と言っても過言じゃない!
「って姉さんの友達が言ってた」
「受け売りなんだ……」
「う~ん……でも山の大自然の中でBBQも……!」
どうやら恵介が山に行くのを所望したのは肉だったようだ。だったら買収は簡単かな。肉だけなら勝ち筋はいくらでもある!
「恵介、ここなら肉めっちゃ食べれるよ」
「なに!?」
「6人から予約できるんだけど、1000円追加すれば肉追加できるらしいよ。それに恵介の好きな海老もある」
「……だったら海でいいか」
はい買収完了。まさか先月茜屋でエビが好きというのを聞いていたことがここで役立ってくるとは……。
「にっしーも奏ちゃんもここでいいよね?」
「僕は家で……」
「私は構わない。西岡は私が責任もって連れてこよう。いくらなんでも毎日部屋に籠っているのは見過ごせないのでな」
それを聞いた途端西岡君は少し怯えた顔になって、周囲に諦めから来た暗い空気をばら撒くようになった。できるなら強制的に連れ出してくれるなら夏休みの間自室で海外ドラマばっかみてるうちの母を追い出してほしい。
「そういえばだけど、恵介はなんで海は行きたくなかったの?」
「え、ああ……聞くか?」
「うん、興味あるから」
「俺、泳げないんだよな。小学生のころ溺れて以来それがトラウマでもう……」
結論、溺れたことがあったり金槌は全員夏休みは山派になるらしい。
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