未熟な女神様が人を死なせてしまったので、異世界転生して責任とる物語

轆轤百足

未熟な女神様は人を死なせてしまう

 ここは、とある世界。

 剣や魔法が存在する、ファンタジーあふれる場所。  

 お約束とも言えるように、人類と魔王が戦争を繰り広げていた。

 人類は平和と自由のために。

 魔王は支配と力の誇示のために。

 その戦いは、圧倒的に魔王軍が優勢だった。

 それは、なぜか。


 ――強大な魔王がいるから? 凶悪な魔物の幹部がいるから?


 いやいや、どれもちがう。

 その理由は、魔王軍の尖兵に史上最強のオークがいたからである。

 彼は他のオークを凌駕する巨躯と身体能力をほこり、それに加え魔法を無力化する結界を張り巡らす、微量で都市を壊滅させる猛毒を生成するを持っていたのだ。

 このオークの心臓が発する結界の前では、どんなチート能力を持つ勇者も英雄もただの凡人になりはてた。

 そして、一度このオークの侵入を許したら、どんな強固な要塞都市も猛毒ガスにかかり一夜で滅びた。

 しかし、これだけ優秀かつ強い彼は、魔王からも仲間達からも嫌われていた。

 けして能力に慢心したり、他者を見くびったりしていたわけではない。

 ただ、彼は恐ろしく醜悪な姿をしていたのだ。

 その顔はオークと人間が混じりあったような形をし、口が閉じれず歯茎剥き出しで、雄にもかかわらずその胸には雌のごとき乳房があり、そして下腹部を隠す腰布の奥では何かが常にウネウネと蠢いている。

 彼は、その醜い見た目のため皆に嫌われていたのだ。

 どんなに成果をあげても、評価もされず、近寄る者もいなかった。

 そんな彼には秘密があった。

 彼は、もとは人間であり、別の世界の住民、つまり転生者なのだ。

 なぜ彼は、こんな姿になり、この世界にやってきたのだろう……。




× × ×




 時は夜の十時位。

 場所は交通量が少ない山道。

 一台の自動車が正面から大木に突っ込み、グシャグシャになっていた。しかも助手席辺りからは火もあがっている。

 運転席には二十代前半の男性、助手席には同年くらいの女性が乗っていた。

 そして二人は、もう事切れている。

 なぜ、こんな事故がおきたのか。

 その原因は事故車の周囲をあたふた飛び回る光の球にあった。これが車に接触したために事故がおきたのだ。


「ど、どうしよう。私の不注意で、まだ死ぬべきでない人が二人も死んじゃったよぉ。どうしよう、未熟とは言え神の迂闊な行動で死者がでたなんて……」


 あわてふためく青白い光の球の正体は女神であった。

 しかし発言から察するに彼女は、まだ経験も知識も乏しい未熟な神である。

 未熟な存在のため、経験や知識を得るためにこの世界に来ていたのだ。

 そもそも神とは、既存の世界を超越した高次元の領域に住まうエネルギー超知性体である。

 エネルギー状生命体である彼女達は、形を持った物体が存在する物質世界の環境には適応できない。

 そのため神が物質世界で活動するにはエネルギー状の体が拡散しないように、人間や動物を模した器に憑依したり、エネルギーを保存する機械などに入りこんで外界に触れないようにするなど、何かしらの活動方式をとらなければならない。

 むろん、知識をつけて能力を高めれば、他にも色々な活動方式が可能にはなる。

 ちなみに彼女の方式は、外気に触れないように己自身じぶんを電磁殻や抑制力場などで閉じ込める、封入方式と言われるもの。

 その見た目は、端から見ると宙を飛び回る火の玉のように見える。


「うわあぁぁぁ! どうしよう。こんなことが、バレたら……」


 神の不用意な干渉で、生きとし生けるものを死なすなど言語道断。ましてや、あきらかに自分の不注意。

 このことが生みの親であり師でもある全能神に知られたら、まちがいなく怒られるだろう。

 いや……時空に捕らわれない超感覚をもつ御方のため、もう知られてるはずだ。

 未熟な神は、狼狽えることしかできなかった。


「綺麗な夜空に気をとられたばっかりに……」


 彼女は光輝く星々に見とれて、うっかり山道に飛び出してしまい、車と接触してしまったのだ。

 超高温のエネルギー状生命体である彼女と接触したがため、車の一部は融解し火があがっているのだ。

 このままでは、燃料に引火して爆発してしまうだろう。


「悲観してる場合じゃなかった!」


 未熟な神は、二人の遺体だけを特殊な固有の異空間に運びこんだ。

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