FLOWERs 〜恋する家政"夫"編〜
兼本 実弥
第1話 恋心はクビ
「これが昨日までの給金です。これをもってお帰り下さい。」
和子はそう言って机の上にお金の入った封筒を女性に向かって投げる。
「お許しください……どうかどうかこのまま……」
女性は食い下がるが、和子は容赦しない。
「おだまり!フッ、契約違反をしたのはあなたでしょう。最初にちゃんと契約の絶対事項は伝えてますからね。昨日までの給金が貰えただけありがたいと思いなさい!」
女性は封筒を手に取り涙を流しながら去っていくのでした。
女性が帰ったのを確認し、和子は別室にて仕事中の京介のもとへとやってきた。
「京ちゃん、お手伝いさん新しい人すぐに探すからちょっと待っててね!」
和子は、このマンションのオーナーで不動産業を生業としている京介の母だ。
先程の女性は、京介の空間であるこのフロアと、1階下にある9階和子の、家の掃除と身の回りのことをしてもらうために、家政婦として雇われていた女性だった。
契約時から若い女性のため、京介への恋心などが生じた場合は、クビにすると伝えられていたのに昨日、京介の服を抱きしめているところを見られクビにしたのだった。
「新たないい人いないかしら?
京ちゃんは男前でいいけど、モテすぎるのも困ったものねぇ……」
ブツブツと言いながら部屋から出て家政婦協会に電話をかける。
和子のことばを黙って聞きながら仕事をしている京介。
年齢は29歳。モデル並みに背が高くすらっとした体型。仕事も順調で年収も億をゆうに超えている。
母と2人だけの家族で、仕事の邪魔にならないようにと母は9階、自分は10階で生活している。家のことは全く何もできないし、和子には楽をしてもらいたく家政婦をいつも雇っていた。
性格も寡黙で大人しく、暴言など吐くはずも無い人物。
しかし、寡黙がゆえ女性とお付き合いは何度かしたものの、いつも上手くいかない。仕事でもほぼ家からでないので、出会いもない。また常に和子がそばにいるというのも、女性からしたら近づき難いのである。
ということで彼女いない歴、もう9年になっていた。
プルルルル……
京介の仕事用の電話が鳴った。会社従業員戸上からだ。
「社長、そちらのマンションを借りたいと申し出があります。高柳家のお嬢様とのことなのですが、どうしましょう?」
「別に構わないよ、身分だけしっかりと調べてくれ。ちゃんと本人で、条件よければ入居してもらって」
このマンションは10階建てで、10階はすべて京介の仕事場兼自宅となっている。
6階から9階までが富裕層向けで自由がきく広く大きな住宅。その一室を和子に用意していた。
2階から5階までが通常家庭用のマンションで、1階にはコンシェルジュが常駐しており、他にも住人専用のジムも併設されていた。セキュリティももちろん最先端のものが導入されている。
地下は地下2階までが駐車場となっており、大きな車を所有している人にも広々と置けるようになっていた。
高さこそ無いものの、どこからどうみても高級感漂うマンションだ。そのため、名家のご子息ご令嬢などからも住みたいと入居依頼がくるのであった。
京介はこんな億ションを都内のみならず、全国に所有しているハイスペ男なのである。
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