第48話 まあ、そうでしょうよ?
張り詰めた緊張感の漂う大会議室……白い外套のオジサマが静かに立ち上がると、ゆっくりとカヒラの前に立った。
ところが、今まで大人しくしていたリエラレット妃が勢いよく立ち上がると、オジサマに向かって吠えた。
「お待ちなさいぃぃ!カヒラは出生の時に調べてあるのよっ!?陛下の御子です!」
「それならば、もう一度調べても何か問題ありますかな?」
うちのじいちゃんが切り込んだよっ!!(注:先々代公爵閣下のお言葉である。)
リエラレット妃は、ぐぬぬ……な表情を浮かべて、うちのじいちゃんを睨みつけている。
しかしさ、そんなに焦っちゃ余計に怪しいって自ら自白しているようなもんだよ。
そんなリエラレット妃をガン無視して、外套のオジサマはカヒラを見ている。見られているカヒラは珍しく騒ぎもせずに下を向いて大人しくしていた。
まあ…自分の母親の取り乱しっぷりを見ていたら、自分のDNA鑑定の結果が芳しくないってことは感じているんだろうね。
外套のオジサマは一つ息を吐いた後に、国王陛下(サレ夫)の方へ向き直った。
「カヒラ殿下の魔質には陛下の魔質は感じられませんでした」
オジサマの発言に大会議室は騒然となった。
どういうことなんだ…とか、カヒラ殿下の出生時に診断をした術師をここに呼べ…とかの声が上がっている。
「静まれ、暗部からの報告を聞かせる。イヨ、述べよ」
イヨって誰だ?と思ってお父様(サレ夫)が見た方向に顔を向けると『イガモノ』のお頭がスルッ……と傍聴席の間から出て来ると、懐から巻物……じゃない、ぺら紙を出してきていつもの淡々とした声で読み上げた。
「出生時にカヒラ殿下を診察した術師は行方不明になっておりましたが、私共が既に捕縛しております。『リエラレット妃に指示された』との自白を得ております」
お頭の言葉に会議場の中に更にどよめきが起こる。
これは……思わず周囲に目を向けた。こんな観衆の前でバラしていいのか?バラすにしても、もっと内々な場所で
「カヒラは王女じゃございませんぜ」
と言ってあげたほうがいいんじゃ……と、思いながらお父様の顔を見て、悟った。
これはサレ夫の復讐なんだと。
カヒラはファーガリオン王族の血族では無い、これを公の場で知らしめてリエラレット妃の不貞を白日の下に晒す。こうすることがお父様の復讐、そうなんだねお父様?
後日……
口の重いお父様から何とか聞き出したところ、リエラレット妃の実家のムトリアス王国から当時ファーガリオンに留学中の第二王女のリエラレット殿下と当時王太子だったお父様に婚姻の打診があったそうな、しかもかなり強引に……勿論その時には私の母とすでに婚姻しておりましたがね。
そしてその強引な婚姻打診の際に、ムトリアス側からは多額の婚姻支度金と土地鉱物資源の利権等々、更にこちらに有利な密約を条件として出されたらしい。
これだけでもリエラレット妃がヤバイ案件扱いだということが分かろうもんだが、何故そんなのと婚姻しちゃったんだよ。
そう聞くと、お父様は珍しく苦々しい表情を見せた後に
「提示して来た条件以外にリエラレット妃は第二妃という扱いで公の場には出席させない、正妃の権限は一切持たせることは無いという条件を提示した」
と言った。
他国の王族の婚姻にしては厳しい条件だと思った。その私の心の声が聞こえたのか、お頭達が調査した『リエラレット=ムトリアス王女殿下に関する報告書』をお父様が見せてくれた。
調査日は今から18年前……所謂、婚姻前の素行調査みたいなものかな?と、思い内容に目を通して驚愕した。
リエラレット王女殿下の男性遍歴が事細かに記されていた。いや~これはこれは……勿論マスメットジジイの名前もあるけど、リエラレット妃を擁護している派閥の貴族(当時は子息かな?)のお歴々の名前がずらりと揃っていた。
可愛らしい表現をすると、リエラレット妃を介してのお仲間達かなぁ……こりゃとんでもない不良債権王女だわ。
それで私の母が正妃に納まっている間は、取り敢えずは条件を守って息を潜めてたのか。しかし母が亡くなった途端、出て来たと……但し子供は種違いと、お父様も最初から分かっていたからカヒラに冷淡な対応だったんだね。
「ナノシアーナの母、ジョゼリーヌが身罷った後でもリエラレット妃に全ての権限は持たせてはいない。リエラレット妃に権限を持たせろと煩く騒ぐ連中は、過去にリエラレット妃の遊び相手をしていた男ばかりだ」
お父様の言葉に全ての合点がいった。
リエラレット妃を押し付けられた形になったお父様だけど、もぎ取るものは全部もぎ取って尚且つ、そこから自分達に有利な条件をつけてムトリアスからの不良債権を預かっていた形だったんだね。
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