第32話 魔球を受けてみろ!

私は、廊下の窓から公爵家の門扉辺りを睨みつけていた。


マスメットのジジィを足止めせよ!の指示で、関所で足止め係をしているはずのラナイス様が中々戻って来ない。


そう…何故マスメット卿だけが、のこのことやって来たのか…それは密かにラナイス様につけている“イガモノ”からの報告を受けて私は知っている。テルリアン叔父様にも事の次第をお伝えした。テルリアン叔父様は初めて見るぐらいにガクブルしていた。


「はぁ……」


思わず溜め息が漏れる。テルリアン叔父様も先程から溜め息のようなものばかりついている。何故、こんなごちゃごちゃしている時にわざわざやって来るのか…


『空気を読め…』


「何か仰いましたか?」


私の隣で一緒に外を見ていたテルリアン叔父様が、私の異世界語ボヤキを聞きつけて顔を覗き込んで来た。


いえ何も…と、返しておいてから後ろの方へ目を向けた。


兎に角…ラナイス様はゆっくりと帰って来ざるを得ない状況に陥ってしまっているので、テルリアン叔父様と二人でこの場を切り抜けなければいけなくなってしまった。


まあ、ラブリーが全体的に上手く仕切ってはくれるだろうけど、私の役目はマスメットジジイに打ち返せない魔球を打ち込むのみだ。


よしっ…やるかっ!!


客間にマスメットジジイ一派(マスメット、カンペ孫、ジョナ、ジョナ旦那、ジョナムチュコタン二人)を押し込んでいる。


私を伴って客間に入ってすぐにテルリアン叔父様は


「もう分かっていると思うが、ジョナ夫妻と息子達は解雇になる」


と、バッサリと言い切った。


ジョナはそれを聞いても深く頭を下げたままだったが、息子達はいきり立った。


「なんっ…!?」


「どういうことだ…!?」


絶句した後に、ムチュコタンは揃ってマスメットジジイの方を見た。


それはアウトだからさぁ~雇い主じゃなくて、敵?の方をそんな見方してちゃバレバレだよ。


テルリアン叔父様はそんな息子達の様子を無視したまま更に話を進めた。


「マクス、イーリス…君達の勤務態度の報告は受けている。チャベルの甥だから不慣れな侍従の勤めで失敗をしても多少は大目に見てきたつもりだった。だが…同じ使用人に対して横柄な態度を取り、職務怠慢で無断欠勤も多い。おまけに賭博場で借金を作っているそうだね?」


テルリアン叔父様の言葉にムチュコタン達が黙り込んだ。


賭博場…つまりはカジノで遊んで借金を作っちゃったんだね…挙句に息子達はそんな風に言われている間も、マスメットジジイの方に目を向けちゃってるね。あ~あ、マスメットジジイはワザとらしく目を逸らしてるよ…


「それとテイルからはジョナと離縁し、公爵家を出ることに了承を得ている。それでいいかな、テイル?」


テイルと呼びかけられた…ジョナの旦那はヘラヘラと笑いながら、何度も頷いた。


これにはジョナも息子達も初耳だったのか、小さく叫び声を上げながらテイルの方を見た。


「父さん?なんだって…聞いてないよ!」


「あ…あんた…」


息子(マクス兄)とジョナがテイルの腕に触ろうとしたが、テイルは嫁と息子(マクス兄)の手を振り払った。


「うるせぇ!俺にはもう関係ねぇ!」


何だかジョナとテイルは揉み合いになっている。それを息子達が止めたりして…修羅場かな?これ…


はぁ……見ていて胸糞が悪すぎる。旦那のテイルがこの件に関与しているかは『している』『していない』の水掛け論になるのは分かっている。


現に単独での聞き取りでは、ジョナはテイルと息子達の関与を認めているが、旦那は知らないの一点張りだし…まあ実行犯というか表立って動いていたのはジョナで間違いないだろうけど…


チラリと横目でテルリアン叔父様の表情を見ると、早く終わらせたい感が漂っている。もう理由はどうであれ、出てけやごるぁ!!なんだろね、分かるわ。


さて、この辺りで私も参戦しておこうか…そろそろ牙城を崩しておこうかな。


「では、ここにいる皆様とはお話が済みましたのでお引き取りを願いますわ」


私が、そう切り出すとジョナ一家とマスメットジジイの視線が私に集まって来た。


「とっととお帰り下さいな!」


私が強めの口調でそう言うと、皆は益々驚いたような顔をしていたが、本丸…マスメットジジイがぬるりとソファから立ち上がると私を指差した。


「そんな物言いを…良いのですかなっ?リ…国王妃に…分かっておられるのか!?」


でたーーーーっ!やっぱりなっ!ここであのオバサンの名前を出しちゃうあたりが馬鹿だよねぇぇぇ~自分で関係を認めちゃってるんだよねぇぇぇ~


おかしくなって、堪え切れずに忍び笑いをしながら


「リエラレット妃に言ってどうなりますの?あんな騒がしいだけのお方に何が出来ますの?」


前からの鬱憤を晴らすべく、思いっ切りぶつけてやった。


さ~て魔球を打ち込んでやるかな。

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