第21話 信頼性ゼロ

鍋の中で根野菜を炊き込んでいる。この世界には〇ンソメや即席〇ープなんてものはないからまずはブイヨンスープ作りだ。


グツグツと煮立つ鍋の前に立つ私の背後から見詰めてくる視線が怖い…


私は後ろを見て、ため息をついた。


「お頭…飲んでみる?」


私はお頭こと、国の諜報部の私が命名した“イガモノ”のリーダーを顧みながら、スープを入れた器を差し出した。私が勝手にこのリーダーをお頭と呼んでいるのだけど、お頭は別にお頭呼びの事は気にしていないようだ。


それにしてもこのお頭…私が7才か6才くらいの時に初めて会ったんだけど、あの時も大人な感じに見えたんだけど、実年齢は何才なんだろうね?でも何となくまだ若い気がするんだけど…


「はい…」


こうやって、たまーに口を開くんだけど基本的にイガモノ達は、はいといいえくらいしか話さない。職業規定で口を聞いちゃダメみたいなのがあるのかもしれない。


お頭は躊躇なくスープを飲み干した。


「毒…ではありませんね…」


毒ぅ!?当たり前じゃっ!!私を何だと思っているんだっ!


「当たり前でしょっ!もうっ…で、これが調べてくれたものかしら?」


鍋の火を止めると、お頭が持って来てくれた分厚い茶封筒を手に取った。


カイフェザール公爵の大伯父…エリオ=マスメット元伯爵…ラナイス様の祖父、前々公爵の実兄だ。


そう…重要なことなのでもう一度、エリオ=マスメットは公爵家で長兄なのに弟が公爵位を継いでいる!


ココ…重要なのでテストに出まーす。……冗談はさておき、公爵家の長兄に生まれたのに、弟が爵位を継いでいる。このワードだけでマスメット大伯父が伯爵位を貰って家を出ているこの意味が分かるというもんだ。


私は茶封筒の中を開けて、書類を見た。


『エリオ=マスメットに関する調査報告書』


読み進めてみて、なるほどな…と思い至った。何故長兄なのに公爵家から出ているのか…全ては大伯父の女癖の悪さだった。


正妻以外にも妾が三人、おまけに使用人の若い女の子に何度も手を出す始末…若い使用人はほぼ餌食になったそうで…とうとう曾祖父に追い出されるようにして家を出たらしい。


それでも温情で伯爵位と領地をもらったのだが、大伯父の息子と孫の代で領地運営が危機状況に陥っているらしい。それを公爵家の方に何とかして欲しいと、擦り寄って来ているようだ。当然テルリアン叔父様がシャットアウトしている。


馬鹿は血脈に図太く遺伝してしまうようだ…息子も孫も何やってんだよ。


ふ~ん段々読めてきたよ。ラナイス様を何とか追い出して、テルリアン叔父様だけになれば力尽くで公爵家を乗っ取れるとでも画策しているに違いない。


馬鹿の考えることは短絡的で壊滅的で無計画だね…


あ、因みにラナイス様のおじい様(前々公爵、大伯父の実弟)はご健在なのだけど、王都の交通の便の良い別宅におばあ様とご夫婦でのんびり暮らしているそうだ。


「殿下、チャベスが来ます」


お頭の声に、調査書を読むことを止めて顔を上げて扉の方を見たけど…私にはチャベスが近付いているのかさえ分からないし、足音すら聞こえない。忍びの者は聴覚が異常に発達しているんだろうか…


そして暫くすると本当にチャベスがやって来て、私宛の手紙を数通渡して帰って行った。


渡された手紙は王都で仲良くしていたご令嬢方だったが…一通だけ、あちゃ~な手紙が混じっていることに気が付いた。


「あ~ぁ噂のぉ~エリオ=マスメット卿からお手紙が来たぁぁ…」


私が棒読みで声を上げると、側で見ていたお頭が


「封筒に体を害する術はかかっていないようですね…」


と、呟いた。


途端に手紙がとんでもない物質に見えて来て、取ろうとした手を引っ込めてしまった。


術はかかってなくてもっ、手紙の内容が体どころか気分も害するに決まってんじゃないかーーいっ!

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