第19話 離れ生活スタート

「……っ!なんだって言うんだ!あの殿下っ!」


高らかに足音を響かせて、テルリアン叔父様は大声で叫びながら離れを出て行った。


叔父様、小芝居上手いな…


私の視力では叔父様の細かな動きが遠すぎてよく見えないが、中庭で数人のメイドに大きなリアクションをつけて何かを話しているのが見える。


恐らく、あの我儘高飛車ナノシアーナがぁさあ~めっちゃ意地悪いこと言ってさぁ~とか、散々私の悪口を吹聴しているのだろうと思われる。


「流石叔父上、テルリアン派のメイド達に上手くナノシアーナ殿下のことを吹き込んでいますね…」


え?と思って目を凝らして中庭を見たが、テルリアン叔父様とメイド達って遥か彼方向こうにいて、話し声とか全然聞こえないけど…どうしてわかるの?えぇ~!?口の動きで分かるのぉ?それはすごいですね!


…それはさておき


先程、テルリアン叔父様に説明して頂いた作戦では人払いをして私と話している時に、派手に喧嘩しちゃった☆彡を装いつつ…ラナイス様を下げて下げて、ついでに私の文句も不敬上等で周りに話しちゃおうという段取りらしい。


あのジョナの後ろに誰がいるのか…後ろ盾を正確に把握して握り潰しておきたいそうだ。


「あの…」


「なんでしょうか?」


ニッコリと笑みを浮かべて私を見詰めるラナイス様の眩しいぃぃご尊顔を見て、目を細めながら気になっていたことを聞いてみた。


「先程のテルリアン卿のお話の中に出てきましたが、ジョナがこの屋敷に来る時に紹介状を持っていたと仰っていましたよね?その紹介した方が、ジョナの後ろ盾ではないのですか?」


ラナイス様は一瞬目を丸くして私を見たが、表情を引き締めると窓越しに中庭を見ている。


「ジョナの持っていた紹介状は、私の従姉が書いたものでした。従姉は伯爵家に嫁ぐ前にジョナと面識があったと聞いています。そんなジョナが久しぶりに会いに来て、公爵家への紹介を乞われたので、断れなかったのだろうと思います。後で、叔父上が従姉のディレシーアに問い質したら、紹介状を書いてあげるようにと…マスメット大伯父から頼まれたようです、叔父上の伯父です。先々代のおじい様の兄にあたります」


ふむ…大伯父ね、これまた胡散臭そうなジーサンが出て来たじゃない?それが黒幕じゃないの?


私がそう言う目で見ていたのに気が付いたのか、ラナイス様は魅惑的な微笑みを浮かべた。(注:この世界の美醜基準では恐怖の微笑みと推察)


「まあ…そうですね。中々攻めあぐねております」


ラナイス様はやんわりと答えてくれた。


まあいいか…そのジーサンが直接乗り込んで来ても怖かないけどね?


「さて…そろそろ夕食の準備をせねばいけませんが…メイド達がジョナの先導でナノシアーナ殿下の食事を準備してくれるのかどうか…」


ラナイス様がそう言って呟いたが…


「っあ!!!」


「!」


思わず珍妙な叫び声を上げて、ラナイス様を驚かせてしまった。すっかりジョナの件で忘れていたが、本来の目的である


隠れて目立たない所でひっそり生活…をする為の準備を忘れるところだったわ~


「ジリアン、カレン!出るわよっ準備して」


「はいっ!」


ジリアンは元気よく返事をし、そしてカレンは無言のまま頷き二人は急いで部屋を出て行った。


そう…ラナイス様との別居生活を快適に過ごす為に、キッチン機能の備わったこの離れに住む前に事前に調べていたことがある。


自炊するには買い出しだー!…てなわけで、このカイフェザール公爵領の繁華街はどこにあるのか、食料品一式が買える商店街的なものはあるのか…調べておりますもの!ありがとうっイガモノ達よっ!


ミツルちゃんがフード付きのロングコートを持って来てくれた。気が利くよっウチの乙女男子はさ~フードで私のびっくり不細工フェイスを覆い隠せるよね。(注:この世界は美醜逆転の世界である)


ジリアンとカレンもコートを羽織って戻って来た。


「よーしぃぃぃ!繁華が…違ったっ、買い出しに出撃よ!!」


「はいぃぃ!?」


私が拳を突き上げたと同時に、ラナイス様の絶叫が室内に響き渡った。


あ……ラナイス様いたんだった…

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