第11話 面倒くさい、ただひたすらに面倒…

私の前を歩くメイド長の背中に力が入っている。


まさか私が、カイフェザール閣下に直に聞いてみると言うとは予想してなかったのだろうね。私を我儘王女だと思って、ああ言えば怒り狂って王都に帰る…とでも思っていたのかもしれない。


しかしだね、公爵家のメイドなのだからソコはググッと耐えなければいけないと思うのよ。少なくとも顔に出したり態度に出したりしては駄目だと思うんだ。


メイド長の年の感じから察するに、先代公爵から仕えていて…プライドがものクソ高そうな気がしている。


ああ…面倒くさ…こういうパターンが一番嫌なのよ。この手のオバさんは、公爵家の為を思って言ったんですっ!!とか言って忠誠を全面に押し出して来て、正義を振りかざしてくるタイプが多い気がする。


そして案の定…メイド長は重厚な扉の前に立ち止まると、胡乱な目を向けて私を振り返って来た。


その目はアウトだぁぁ!!


「本当にお聞きになられるのでしょうか?」


その台詞もアウトだぁぁ!!


「ええ、お願い」


私は鷹揚に微笑むと、重厚な扉を見詰めた。


私が重厚な扉の中に入ると、王都からの馬車でご一緒だった軍服の男性と初老の男性がいた。カイフェザール閣下は私とメイド長という取り合わせに、目を見開いている。


私は口角を上げると閣下に向き合った。


するといつの間にか、メイド長はカイフェザール閣下の側に素早く移動しており、まるで上座から見下ろすような目で私を見ていた。


おいおい?私のすぐ傍には、初老の佇まいから察するに執事長?と思われる男性と、カイフェザール閣の片腕?と見られる馬車でご一緒してた軍服の男性、2人が居るんだけど?メイド長はその2人までをも見下ろしちゃうわけ?


私はすぐに言葉を返そうと、口を開こうとしたがそれを遮るようにメイド長が声高に叫んだ。


「王女殿下は王都を離れられ不安を抱えていらっしゃるように思えましたので、暫くはお一人で落ち着かれた方が良いと判断しまして、お食事を自室にお運びすることに致しました!」


言い切った!しかも良い事してあげた!みたいな風を装いつつ、私にボッチ飯を強要したと堂々と宣言した。


メイド長は、私やってやったわっ!みたいな謎の高揚感溢れるお顔をされている…


しかーし!甘いぞ?私が何も調べないで、のこのこと公爵家に嫁に来たとでも思っているのか?


私は内心高笑いをしつつ、メイド長に微笑み返してあげた。


「まあっなんて素晴らしい配慮なの~じゃあ静かに過ごせるお部屋もお願いしたいわね…あら?そういえば…別邸が公爵家の敷地内にあったんじゃ…」


私がニヤニヤしそうになる顔に力を入れながらそう尋ねると、メイド長の目が輝いた。


よしよしっ気が付いたね!


そう…事前に調べていたことがある。


望まれて婚姻するのではないので、公爵家で肩身の狭い状態になることは予想が出来た。それならば世間体を気にしつつ、程々自由を満喫し尚且つ、カイフェザール閣下の目に触れないベスポジがこの公爵家の敷地内にないのか…と調べた所、お誂え向きの別邸…離れの建物が存在することが分かったのだ。


しかもその別邸は独立した調理スペースも完備しているらしい。まさにこんな私にうってつけ!問題はどうやってその別邸に移り住むか…と色々と策を練ってきたのだが…これは振って湧いた幸運だよね。プライド高そうなメイド長の登場が私にチャンスを呼び込んだ。


メイド長は私とは別方向の嬉しさを醸し出しながら、カイフェザール閣下に話しかけた。


うおっ?使用人の方からいきなり公爵に話しかけるのぉ?メイド長はフリーダム人のようだ…


「ラナイス様、別邸で構いませんよね?」


うおー-い!主人(ここでは閣下)の同意や命令もないのに、決定事項の如く話すな!

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