いよいよキターー
「鳩メールで呼んだから直ぐに来てくれるって!子供達がいるから僕が運んであげる事は出来なくて、ごめんね。後で駆け付けるから」
笑夫さんの言う通り、イルカは直ぐにやってきた。
「HEY!何処へ運べばいいんだい?僕はルカ!あれ?君もしかして──」
「五郎ちゃん!! 」
少し軽い感じのイケ面イルカの背中から乙姫ちゃんが顔を出した。
「乙姫ちゃん! 」
可愛い奥さんの顔を見て、驚きの後に安堵がじわっと込み上げて泣きそうになってしまう。
「早く乗って!出来る事なら此処でじゃなくて家に帰って産みたいでしょ? 」
乙姫ちゃんの言う通りだった。
家にある海草のインテリアに尻尾を絡めてイキまないとダメだ。
笑夫さんがルカ君の背中に僕を乗せてくれた。
「五郎ちゃん、しっかりね」
「じゃあ、飛ばすよ! 」
まるで海を泳ぐようなスピードだ。
僕達タツノオトシゴは本当に泳ぎの下手な海の生き物なのに、イルカと来たら何て速さなんだろう。
陣痛は苦しいけど風が気持ちいい。
弁&銀の頭上を通り抜ける時、僕の姿を認めて彼等の嘴がオーの字になる。
ムチオトカゲの影子さん、熊美さんに鹿子さん。
皆が驚きの表情でイルカに乗った僕を見上げる。
「産気づいてるんだよ! 」
頭上を通過する時、ルカ君が彼女達に伝えた。
アザミさんと楽美さんと心愛さんの立ち話する姿が目に入った。
猛スピードで進むイルカの上の僕と一瞬目が合う。
三匹は何か叫んでいたけど聞こえなかった。
あ、花さんだ!
ガルルルルルル
吠えられても、もう怖くない。
でも相変わらず顔は怖い。
陣痛は強くなったり弱くなったり。
いててててて。
痛みで顔を顰めた時、家に到着した。
「五郎ちゃん、着いたわよ!ルカ君ありがとう! 」
「どういたしましてーー」
そう言うと、ルカ君はあっという間に行ってしまった。
乙姫ちゃんに支えられ家に入ると、海藻のインテリアに尻尾を絡ませる。
ああ、やっぱり海藻に掴まってると安心する。
「五郎ちゃん痛くない? 」
可愛くて優しい乙姫ちゃん。
最高の奥さんだ。
こんな状態じゃなければ直ぐに尾を絡めてダンスしてチューしたいのに。
「ううううーー陣痛がぁーー」
思わずイキみたくなるけど、まだ早い。
暫くして痛みが収まり、また痛みが復活する。
それにしても何だか周りが騒がしい。
はっと窓を見ると沢山の動物達が覗き込んでいた。
乙姫ちゃんが外に出る。
ドアを開けた途端に皆の大きな声援が部屋中に溢れる。
「頑張れ!五郎君! 」
「落ち着いて!息吸って吐いてー」
その中には雛達を背中に乗せた笑夫さんの姿もあった。
途中出会ったアザミさん楽美さんに心愛さんは祈るように両手を合わせ、熊美さん鹿子さんも駆け付けてくれた。
ルカ君は他の雄達を引き連れて、ムチオトカゲの影子さんも興味津々という風に見守ってくれている。
「五郎ーーーー気合い入れろーー負けんじゃねーぞーーーーガルルルルルル」
恐ろしく気合いの入った声援はもちろん花さんだ。
こんな熱い声援を送られたらイキんでしまいそうになる。
道で出会ったカバの親子やまだ話した事ない動物達まで覗き込んでいる。
フォレスト中の動物達が集まってきてるんじゃないだろうか。
弁&銀も後から短い足をチョコマカと動かしながら息を切らしながら走ってきた。
何て皆いい動物達なんだ。
新参者の僕の為に──
「息吸って吐いてーー」
「ヒッ・ヒッ・フー」「ヒッ・ヒッ・フー」
「ヒッ・ヒッ・フー」「それ、ヒッ・ヒッ・フー」
ラマーズ法呼吸を皆で唱和し始める。
僕のお腹がブルルっと震えた。
「ヒッ・ヒッ・フーヒッ・ヒッ・フー」
呼吸を調えイキむ。
ポコッ
「あ!! 」
僕の育児のうから赤ちゃんが一匹勢い良く飛び出した。
一瞬静まり返った屋外の動物達から拍手と歓声が沸き起こる。
乙姫ちゃんが赤ちゃんを受け止めチューをした。
「まだまだ! 」
勢い付いた僕は次々と赤ちゃんを産み出していく。
「可愛い!おめでとーー」
皆の祝福の声が溢れる中、最後の赤ちゃんが育児のうから飛び出すと、僕はぐったりと床に倒れ込んでしまった。
「五郎ちゃん、ありがとう!こんなに可愛い赤ちゃんを沢山産んでくれてありがとう」
乙姫ちゃんは涙を流して僕に頬擦りした。
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