ビアンカとネラ

「あれから一週間経つけれど、ここの暮らしには慣れたかしら」


「……ええ。まぁ、大体」


「……拗ねてる?」


「……いいえ。拗ねてませんわ」


「そう?」


 顔を合わせようとしないネラにビアンカは擦り寄り、肩に頭を乗せました。そして、ネラの膝の上に置かれた手に自身の手を重ねます。ネラはびくりと軽く跳ねました。


「あら? もしかして緊張してるの? 初めてでもないのに」


「う、うるさいわね……慣れてないのよ……」


「……ネラさんって、三十五でしたわよね」


「そ、そうですけど……彼はずっと鏡の中に閉じ込めていたし……」


「もしかして、先週のあれが初めてだったりします?」


「……そんなことは……無いですけど」


「あらそう。なーんだ。つまんない。わたしが初めてじゃないのね」


 不満そうに唇を尖らせながら、ビアンカはネラの指先を愛撫し始めました。


「……」


「……」


 沈黙の中、ビアンカはひたすら、焦らすようにネラの指先だけを愛撫し続けます。


「ネラさんの手、綺麗ね。爪も、綺麗に手入れされているのね。毎日磨いてるの?」


「……そういうあなたはずいぶんと深爪なのね」


「伸びていたら傷つけてしまうかもしれないので、爪には気を使ってます」


「あ、あぁ……なるほど……そうですか……」


 そういえばヴィオラも深爪だったな……とネラは思い出し、ビアンカがヴィオラに抱かれている想像をしかけて、慌ててかき消します。


「ふふ。なに想像したの?」


「な、何も!」


「えー? 怪しい〜」


「べ、別に……というか……いつまで手触ってるのですか……」


「ふふ。他も触ってほしくなってきちゃった?」


「べ、別に……」


「あらそう?」


 くすくすと笑いながら、ビアンカはネラの指先を撫で続けます。


(まさか、触って欲しいって言うまで触らない気なのかしら)


 ちらっとネラがビアンカの方に視線を向けると、彼女は「何?」と小首を傾げました。

 ネラは視線を逸らし、ビアンカの指に指を絡めました。そして小さく「キスして」と震える声で呟きました。「どこに?」と意地悪い笑みを浮かべてビアンカが問うと、ネラはむっとして、ビアンカをベッドに押し倒し、唇を奪いました。そのまま服を脱がせようと手をかけましたが、捕まれ、止められ、押し返され、結局、先週と同じように翻弄されてしまうネラなのでした。

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