第29章 光 〜中編〜
壁を突き抜けて飛ぶその姿を見ながら、俺は即座にソレについての興味を無くした。
振り返ると、全身に刀傷を負ったベルドが倒れている。クレイドルは無傷だ。
「やっぱり断罪者は流石だな……」
「お前、そろそろ黙ったら? また刀飛んでくるぞ?」
肩で息をしながら、つぶやくベルドに冷たく言葉を投げかける。
「いやいや、そんな事にはならないよ。」
その言葉の真意は掴む前に、目の前に事象となって現れた。
白色の鎧と盾。流麗な剣が似合う青年。
「……ライト…?」
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「ライトがそんな事を…」
α7、中央管理局の一室。局長のニコルによって話された内容はかなり驚く内容だった。
王国騎士団長の行方不明。そして置き手紙。
属性出力が高すぎる故に、意思を乗っ取られる可能性があるという内容。光属性はそこまで危険な属性では無かったはずだが、唯一危険視するとすれば、強者を求めること。もしかすると、その特性に意識が乗っ取られて行方をくらました可能性はあるか。
アイツの開放率は97%。異常な開放率の裏には、壮絶なデメリットがある。
「公にはどうする?」
「あぁ、"遠方に出張"とのことだ。数名を捜索に当てて、それも表向きには同行している事になる」
「まぁ、それがいいな。」
王国騎士団団長が行方不明。何も無く戻って来ても、批判は避けられない。
しかし、そうか。
「……関係ない奴らが傷を負うことはなさそうだな。」
「隊長。何故言い切れる…?」
「アイツの近くには、これ以上無い適任者がいるじゃないか。そいつを追い回すに決まってる」
「そうか……適任者が……」
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二刀流。それは、勇者のみに許された例外的武装状態。専用のソードスキルと使用武器のソードスキルを同時に使えるこの状態は、北の龍の加護があって初めて運用できる。
が、目の前のコイツはそんなものも無く、間接的に二刀流の再現を成している。
迫りくる剣と盾を必死に捌きながら後退を繰り返す。手加減して勝てる相手ではない。が、剣術大会とは違う。自動転移なんて存在しない。
「クソッ……」
ソードブレイカーが加勢しようと立ち上がるのが見える。流石にここに来られるとまずい。
しかし、俺の親友は優秀だった。即座にソードブレイカーの前に躍り出て、ソードスキルを発動。刀用2連撃技『
「ゼクル。……ここは任せろ」
「……ったく! ツンデレばっかじゃねぇか!」
そう言い放ちながら、攻撃を捌いていく。そろそろ片手ではキツくなってきた。……仕方が無い。
「……相棒!」
叫んだ瞬間に、遠くの空から降り注いだ剣。
世界最強の一本。
勇者剣ガルバリオンは、俺の前に出るとライトの繰り出した盾を防ぎ、剣を左手に預けて伸ばした、俺の右手に収まった。
剣を握ったままの左手の拳で、ガルバリオンのレバーを押し込む。当然、バリアの為ではない。ガルバリオンのスキル、パワーコートは刀身を包み込み、その攻撃力を増大させる。
「ライト……来い」
「………………」
ライトは無言。でも分かる。コイツは、コイツの奥にいるアイツは、手加減なんて望まない。
飛ぶような鋭い水平斬りを左手の黒剣で防ぎながら、右手の剣を回転させて肩に担ぐ。俺の中を流れる属性エネルギーを全力で込めた一撃。
ワイルドブロー。
地面がひび割れ、三方向に向かって亀裂と衝撃波を伸ばす。その中心で盾を構え、三撃全てを防いだライトは、反動を感じさせない動きで俺の懐へと入り込んだ。
咄嗟に逆手持ちにした黒剣でラッシュを弾きながら必死で下がる。流石にゼロレンジの戦闘は無理だ。俺の速度と装備では、ゼロレンジでライトに勝てる見込みはない。
「アレが効かねぇとか……反則だろ……!」
ワイルドブローは、俺が出せる火力の限界値に近い。これが効かないとなると、手数で攻めるしかない。敵がいる場であまり使いたくは無いが、持つ手札は使うべきらしい。ライトの連撃を防ぎながら、右足による目の前へのキック。距離を取りながら体勢を崩す事に成功した俺は、その一瞬に勝負を仕掛けた。
「……ドラゴン……!」
『……黒龍化、第一段階』
「……黒翼・展開」
俺の背中から、黒い翼が生え、そこから空間中の魔力を吸い取る。制御装置である角は出ていないため、それを放出する為に翼の一部が金色に輝く。それを見たベルドが、唖然とした様子で呟く。
「……なんだよ、アレ」
「ドラゴン・ウィングバースト」
俺が呟いた瞬間に、翼の各所から黒い波動が放たれる。俺の動きをある程度予想できていたクレイドルは、刀スキルの【諸行無常】で回避したが、それ以外の全員の身体を吹き飛ばす。高く飛び上がり、剣を呼ぶ。6本の剣が飛来し、ライトに襲い掛かる。連続で飛来する剣をステップ、パリィ、ガードを使って捌きながら、近付いてくる。その瞬間、ライトと目があった。その、赤く光った目。
「――――ゼェェクゥゥルゥゥッ!」
ライトの左手から、音も無く射出された盾は、俺を狙って飛翔し、迎撃に向かった剣2本を弾き返しながら迫る。空中を滑りながら、ギリギリのタイミングで盾を防いだ俺は、跳躍で同じ高さまで上がってきたライトの斬撃を間一髪で避ける。ライトはそのまま盾を踏み台にしながら俺に剣を叩きつけようとしてくる。いや、ライトの足場に向かって盾が移動しているといったほうが正しい。ライトが地上と同じ動きが出来るように、足元へ足元へと、移動している。なら、先にそちらを潰さなくてはならない。飛来した剣が盾に迫るが、やはりと言うべきか、剣は弾かれる。
「仲間が強いのも考えものだな! 」
そう言いながら、迫る剣を弾き、右手の剣を突き入れる。それを空になった左手の篭手で逸らされながら、叫ぶ。
「……尻拭いも一苦労だッ! 」
黒翼が出せる最速の瞬間速度で、ライトの後ろに回り込む。剣を逸らされたという慣性に身を任せて捻った身体で、その伸ばした右手で、黒剣を思い切り叩きつける。がら空きの背中。そこに。
パーフェクトパリィ。
鈍い衝撃と共に斜めに地面へと落下していくライトを、息切れさせながら見つめる。
「黒翼は、しんどいな……」
そう言いながら、翼を格納する。
実際かなりの体力を使う黒翼であるが、この上に第2、第三の黒龍化が存在する。こんなんじゃまだまだだな……と思いながら、倒れたライトの元へと向かう。砂埃の中鋭い殺気。
反射的に左手の剣を前にかざす。俺の視界に入ったのは、俺の愛剣たる黒刀と、それに迫る撃滅剣の大剣だった。
文字通り全身血塗れ。口からも血を吐きながら大剣は振るわれ、高い破砕音を放ちながら俺の愛剣が木っ端微塵になり宙へと溶けていく。
剣同士が当たる勢いによって後方へと飛ばされた俺は、抵抗する気も起きず、そのまま不格好に壁へと激突する。
完全に虚を突かれた一撃。目に見えるレベルで迂闊だった。狙われている剣でガードするなんて。砕いてくれと言っているようなものだ。
持っていかれた。俺の剣が。
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