金魚は所かまわずスライディングをする

睦月 葵

まえがき

 まず、最初に“金魚”の解説しておかなければならないと思う。

 勿論、“金魚”とは比喩ひゆで、筆者自身のことであり、筆者の職業の特性から来た表現だ。

 自分はタクシードライバーである。その職業の最たる特徴は、車という密室に引き籠もり、フロントガラスを含む四方の窓越しに街や人々を見ながら、延々と徘徊(回遊)しているというところにあるだろう。遮蔽物しゃへいぶつなしで人と接するのは、お客さまが乗車されている時と、所属営業所に戻って同僚と接する時ぐらいである。

 ガラスの覗き窓がある密室を、いつも金魚鉢のようだと思うのだ。その密室ごと回遊しているのであれば、自分は金魚のようなものだろう───と、まあ、そういう連想である。

 そして、単にタクシードライバーと云いはしたが、実は多くのタクシードライバーと筆者では大きく違う部分がある。自分は自社の介護タクシーのメンバーでもあり、ヘルパードライバーで介護福祉士でもある。つまり、普通のタクシードライバーとヘルパードライバーを兼任している、会社公認の二重在籍者というわけだ。


 この、毎日毎日ひたすら金魚鉢と共に徘徊している金魚が、金魚鉢を出た時に何をしでかしたり、やっちゃったりしているか───これは、そんな本当にあったお話。

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