第11話 精神世界へ

 暗闇の世界を落下しながら那生なおのぞみの意識を感じていた。

 

 だが那生にはなにもできない。希の意識を受け止め傍観するだけ。

 これは日下部くさかべ先生が希の体験を那生に伝えるためにしていることなのか?

 

 とにかく、那生は希の記憶や体験を感じるままに受け入れようとした。

 やがて眼下にほのかに光を帯びた緑色のグリッドが見えてきた。

 水平方向に果てしなく広がっている。


「一つ目のグリッドに到達しました。破壊してその先に進んでもよろしいですか?」


〝グリッド……?〟


「階層の境界線だと思っています。深い階層まで潜った方が良いですよね?」


〝ではそうしてください〟

 

 那生の意識に日下部先生との会話が、希の体験記憶として流れ込む。

 

 那生:希はグリッドの一部に歪みを生じさせ破壊し、空間に孔を開けた。その奥には更なる暗闇が続いているのが確認できた。まだまだ落下していく。

 スピードも加速している。しばらくすると、那生:希の意識に介入してくる何者かの存在を感じたが、そのまま何処かの世界に引き寄せられていく。それまで暗闇でしかなかった空間に光が生じ始める。那生:希は五感がそちら世界に接続されたのを感じた。


「何処かに辿り着きました」


 先生に聞こえただろうか。もしかしたら現実世界ではもう完全に意識を失っているのかも知れない。那生:希の視界が瞬く間に色付き、世界が広がっていく。


 ここは寺院……、 いや神社の内部?


 **** * *  *  *   *


 漆塗うるしぬりが施されている漆黒の床が見えた。

 戸が開け放たれていて、外から優しい陽光が差し込んでいる。百平米ひゃくへいべい以上はありそうな開放的な空間は、特に装飾などもなく質素だが荘厳でもあった。

 

 那生:希はその広間の中程で稚児ちごの格好をした七人の少女とともに並んで座っていた。

 その周りに黒い巫女装束を着た大人の女官が三人立っている。

 隣に座っていた少女が希の方を向いて心配そうな声で話し掛けてきた。


「ナギ? 大丈夫だった?」

 

 言いながら少女は少しこちらに顔を向けたが横顔しか見えなかった。


「あ、うん。大丈夫だよ、お姉ちゃん」

 

 ナギと呼ばれた少女が隣の少女に向かってお姉ちゃんと呼んでいる。

 那生は自分が希であり、同時にナギであることを認識した。

 二人の仕草に気が付いたらしく女官の一人がこちらに駆け寄ってきた。

 そして、女官はナギを演習で異世界に送り込んだ人だということも認識できた。


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