第36話 アーノルドの心の中
「アーノルド!!」
彼の姿が見え、声を掛けるが彼は全くこちらに気づいていない。
「違う、俺はコネなんかじゃない。実力で選ばれたんだ!!」
「ねぇアーノルドどうしたの?」
彼の目の前にいき、声を掛けるのだが彼の目に私は映っていないのが分かる。私の存在に気づかずに彼は虚ろな瞳で一人ブツブツと呟いている。
「俺は必要ない存在じゃない。父や兄だって今の俺を認めてくれている」
「アーノルド! 聞こえてないの!? 気づいてよ!」
「メイ……」
「そう、私はここよ!」
「メイにも俺はきっと相応しくない。元の世界で生きていた方が安全で幸せなんだ。俺なんか必要じゃない」
「そんなことない! 私はあなたの側にいたいの」
「俺はダメな人間なんだ。どうせ何も出来やしない。ただ公爵家の息子ってだけで役にも立たない人間なんだ。隊長だって兄のような人の方が合っていた。俺なんかじゃダメなんだ」
どうしよう相変わらず視点は合わない。まだ私の声も届いてないみたいだ。
「俺なんか生きてる価値もない。俺が死んでもこの世界にはどうでもいいことだ」
「この馬鹿!! こっち見てよ!!」
そう叫ぶとアーノルドの頬を思いっきり叩く。そうすると少しだけ彼の瞳に光が宿るのが見えた。今なら、今なら私の言葉も届く気がする。
「今の言葉は許せない! 死んでもどうでもいいだって? 良いわけないじゃない! そんなことになったら私が困るの!!」
そう言って彼に抱きつく。
「あなたが居なくなったら私は生きていけない。そうなったらこの世界のことなんかほっぽり投げて元の世界でずっと引きこもってやるわ!」
「……」
「私はあなたが好きなの! あなた以外に考えられない! どんな貴方でも好き! だからお願い目を覚まして!!」
そう言うと呆気に取られている彼に口づけ、同時に浄化の力を流し込む。
「メイ……」
「早く目を覚まして。あなたとまだやりたいこと、話したいことがいっぱいあるの。仲直り後のデートだってまだだし、あなたからのキスだってまだ貰ってないんだから! 早く目を覚まして私のことを抱きしめてよ」
そう言って微笑むと私の意識も遠ざかっていく。
◇
「めい……! めいっ……!!」
みゆちゃんが私を呼んでる声がする……。私はどうしたんだっけ。確かドラゴンが出てきて、襲われそうになった時にアーノルドが来てくれて……、彼はどうなった? どうしたんだっけ……。
「バカめい! 早く起きなさい! 早くしないとアーノルドさんのお見舞いに行けないわよ!!」
「アーノルドっ!! アーノルドは!?」
そうだ、私は倒れたアーノルドを助ける為に浄化の力を使ったのだった。あの後気を失ってしまったみたいだけど、彼は無事なのだろうか。
「安心して、今は集中治療室みたいな所にいるけど命に別状はないわよ? それより私はめいの方が心配だったんだからね!! 倒れたと思ったらそのまま丸3日目覚めなかったんだから!!」
「無事なら良かった……。えっ3日も?」
無事だと聞いて一気に力が抜ける。がむしゃらに浄化の力注いだのだが、ちゃんと彼を救えたようで良かった。それに何か夢みたいなものも見た気がする。その夢の中でも必死に浄化したから助かったのかな。
「そうよ。今日はこっちにきて4日目よ」
「4日目!? でもみゆちゃんは4日間も居られないんじゃ……」
「ライザーが色々やってくれて、4日目も滞在出来たのよ」
「そっか! 良かったね。それでアーノルドはどこにいるの? 早く無事なのを確かめなきゃ」
「待って、ライザーを呼ぶわ。あなたもちゃんと診察を受けるまでは寝てなさいね。3日も目覚めなかったんだから。アーノルドさんもこのままの状態で行っても心配しちゃうわよ」
そう言うとみゆちゃんは部屋を出て行く。確かに身体に上手く力が入らない。自分の力だけで起き上がれそうにないのだ。少し休んでからアーノルドに会いに行かなくては余計な心配をかけてしまいそう。そう思いそれなら現状を把握しようと室内を見回すとここは王宮の一室みたいだ。以前通された部屋と同じだった。
暫くすると治療士の方が来てくれて問題ないか診察される。その後消化に良いご飯を食べ終えるとライザーが来てくれる。
「良く頑張ったな。正直もうダメかと思ったが、ドラゴンの浄化もアーノルドの救命も良くやってくれた。お前はみんなの、いやこの世界の恩人だよ」
「そんな大袈裟だよ。みんなやアーノルドが居なかったら私は何も出来なかったもん」
「いや、メイのおかげだよ。自信を持て。お前の力がなきゃアーノルドも今頃あの世行きだっただろう」
「そんな……。本当に良かった……」
「それで、動かそうか?」
「まだ起き上がるのもツラくて」
「お前の場合は魔力の使い過ぎなんだ。おそらく魔力欠乏症になっているんだと思う。明日になれば動けるようになると思うからそれまで待て」
「それじゃあアーノルドに会えるのも明日ってこと?」
「残念だがそうだ」
「……いやだ」
「……」
ジト目で見られるが、私だってここは負けられない。あんなに死にそうな状態の彼を見たのだ、この目で無事を確認するまで私も休めない。
「……」
「…………はぁ。そうなるだろうと思っていたよ」
そう言うとライザーが薬を渡してくれる。
「これは一時的に魔力を回復してくれる薬だ。数時間しか持たないし、身体への負担も強いからオススメはしないんだが、飲めば動けるようになる。どうする?」
「もちろん飲むよ。飲んでアーノルドに会いに行く」
「分かった。ただしあいつも今回の件でかなり身体に負担が掛かってる。俺が見舞いに行っても寝てる所しか見たことないから、あいつが起きてる保障はないがそれでも良いか」
「うん、ただ顔を見れるだけでいいの。顔を見て大丈夫なんだって安心したいだけだから」
「分かった。じゃあ薬を飲んでくれ。効果が出るまで時間がかかるから1時間後に迎えにくる。動けるようになったら侍女を呼んで支度を手伝ってもらえ」
「うん、ありがとう」
ライザーが部屋から出るとみゆちゃんが入れ替わりで入ってきてくれ、私の体を起こして薬を飲むのを手伝ってくれる。
「本当はちゃんと休んで欲しいんだけど、めいの気持ちも分かるしね。無理はダメよ」
「うん分かってるよ。約束する」
そうして薬を飲むと少しずつ体が軽くなっていくのを感じる。恐らく魔力が体に巡回し始めたのだろう。30分程すると起き上がれるようになり、みゆちゃんが侍女を呼んでくれて支度をする。さすがにアーノルドに会うのだからちゃんとした格好をしておきたい。急いで湯船を浴びると、髪を整えてもらい、服装は王宮に用意してあったワンピースを借りる。最低限整えてもらうと、ライザーを呼んでもらう。やっぱり早く会いたいと、どんどん気持ちが焦っていく。
「準備が出来たみたいだな。アーノルドの病室までは少し歩くが大丈夫か?」
「うん、体も軽くなったから平気だよ。ありがとう」
「分かった、こっちだ」
そうライザーに案内されて15分程歩く。私がいた建物から離れた所に、病院のような建物が建っていて、そこで彼は治療されているようだ。病室の前に着くと彼の両親が居た。
「あいつを救ってくれてありがとう。君が居なかったらこの世界に危機が訪れていたと聞いている」
「そんな、アーノルドが守ってくれたから私は浄化出来たんです。彼のおかげです」
「ありがとうね。あの子もあなたのことを待っていると思うわ。今も時々起きてはいるのだけど、意識が混濁しているの。あなたの声ならはっきりと届くかも知れないわ。あの子のことをよろしく頼みます」
そうお母さんにも言われてしまい、私は頷いて病室に入る。
「アーノルド……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます