第25話 新たに始まる一年 ―中編―

 原付バイクにまたがり、寮に帰ろうと走り出そうとした時、ヒカリのスマートフォンが鳴った。確認してみると、高校の友人のフミからの電話だった。


「もしもし?」


 ヒカリは電話に出た。


「あ、出た!」


 間違いなくフミの声だ。


「どうしたの? 何かあったの?」


 ヒカリは電話をしてきた理由が気になった。


「何かあったの? じゃないわよ! こっちはたくさん連絡入れてるのに、全然返事しないじゃない!」


 フミは相変わらずプリプリ怒っていた。


「あ。……そうだったかなー」


 ヒカリは笑いながらごまかそうとした。


「ごまかさないでよね!」


 フミは鋭く指摘した。


「でも、何かあったの?」


 ヒカリは質問した。


「別に用が無くても連絡くらいするわよ! 友達なんだから!」


 フミは怒っているような口調でそう言った。


「そうだね」


 ヒカリは少し嬉しそうに言う。


「もし今日の夜、予定なければ、うちの居酒屋おいでよ! サービスするからさ!」


 フミは元気な声で言う。


「…………うん。……行く」


 ヒカリは少し考えた後、そう言った。


「じゃ、いろいろ話したいこともあるけど、それは会ってからにするか!」


 フミはそう言った。


「うん! じゃ、またあとで!」


 ヒカリはそう言うと電話を切った。





 

 夜になり、フミの家の居酒屋に到着した。


「こんばんは!」


 ヒカリは入り口を開けながら言った。


「あー! 来た来た!」


 フミが元気よく駆け寄ってくる。フミとは高校卒業以来の再会だった。白の三角巾を頭に付け、紺色の作務衣に白のエプロン、足元は白のタビと草履という居酒屋店員姿もすごく似合っていた。黒の短髪というのは、高校の時と変わっていないようだ。


「お! ヒカリちゃん、久しぶり! 元気?」


 フミの父は笑顔で話しかけた。白の小さなコック帽を頭にかぶり、白の作務衣に黒のエプロンを身につけ、黒のタビと草履を履いた姿は、相変わらず渋くてかっこよかった。


「ボチボチです!」


 ヒカリは笑顔でそう答えた。


「……そうか! それならよかった!」


 フミの父はヒカリの顔をじっと見た後、笑顔でそう言うとすぐに仕事に戻った。


「座敷の方が楽だから、そっちに座ってー!」


 フミはそう言うと厨房に入っていった。ヒカリは座敷の席に座り、店内を見渡した。カウンターには椅子が七つ、座敷には八人用の机が三つというこじんまりとしたお店だ。フミと仲良くなってからは、よくここでご飯を食べさせてもらった思い出がある。フミの父に対しても、少しだけ自分の父のような気持ちを抱いてしまう。この芋焼酎の香りが漂う店内は、少しだけ大人な気分にもさせてくれる。


 すると、フミが厨房からお冷とおしぼりを持ってくる。


「ふふ! なんか、久しぶりに実家に帰った気分!」


 ヒカリはフミに向かって笑顔でそう言った。


「ヒカリにとっちゃ、実家みたいなもんだよね」


 フミはお冷とおしぼりをヒカリの前に並べながら言う。


「フミは、ますますお母さん感がでてきたね!」


 ヒカリはフミを見て少しからかった口調で言った。


「うるさい!」


 フミが怒った様子で言った後、ヒカリとフミは一緒に笑い出した。その後、フミはヒカリの正面の席に座る。


「それで? 魔女にはなれたの?」


 フミは質問した。


「いやー、それが、まだなれなくて!」


 ヒカリは頭をかきながら笑顔でそう言った。


「やっぱり、結構難しいの?」


 フミは心配している様子だった。


「難しいっちゃ難しいと思うけど。……結局は、自分しだいだと思う」


 ヒカリは真剣にそう言った。


「まぁ、どこの世界もそうだよねー」


 フミは持っていたお盆をつまみながらそう言う。


「ふふふ! そういうこと!」


 ヒカリは満面の笑みを浮かべて言うと、フミはじっとヒカリの顔を見つめた後、安心したような優しい表情を見せた。


「でも、元気そうでよかった。たまには連絡してよね。心配してるんだから」


 フミは立ち上がりながら言う。


「そっか。ありがとう」


 ヒカリは落ち着いた口調でそう言った。


「ほらほら! 今日は、お代はいらないから、好きなだけ食べていって!」


 フミは元気よくそう言った。


「えっ! いいよ! 私、働いてるから少しはお金持ってるし!」


 ヒカリは申し訳ない気持ちになった。


「その気持ちだけでいいの。……私がやりたいことだから、させて」


 フミは真剣な表情で言う。その発言を受けたヒカリは、自分にご馳走したいというフミの気持ちを、受け入れなかったことに気づいた。


「……じゃ、お言葉に甘えて!」


 ヒカリは笑顔で元気よく返した。


「うん! たっくさん食べていって!」


 フミはすごく嬉しそうな笑顔でそう言うと、厨房に戻っていった。その後、ヒカリは食事のメニューを見て、何を注文するかを選んでいた。すると、店に新たな客が入ってきた。


「あれ! ヒカリ!」


 聞きなれた声が聞こえてきたので目をやると、なんとそこにいたのはエドだった。

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