年下の先輩は後輩だった

彗星カグヤ

01 俺が後輩だった頃の話

──ごめんね。キミのことは後輩としか思えない



 桜の花びらが舞う季節。俺は先輩にそう告げられた。

 先輩は卒業証書を片手に俺の涙を拭う。まるで小さな子供を相手するみたいに。



 ──キミはまだ二年も残ってるんだからさ。私のことなんか忘れてたくさん青春しなよ



 年甲斐もなく泣きじゃくる俺に困惑した表情を浮かべる先輩。ぼやける視界は夢でも見てるようだった。それでも先輩は現実を突き付けてくる。



 ──キミのそれは恋心じゃない。私に恩を感じて依存してるだけだよ



 正論であり、説得であり、拒絶。

 本当は先輩も俺のことが好きで、でも何か事情があってこんなことを言ってるんじゃないかと期待した。けど、そんな淡い希望こそが幻想だった。



 ──仮にキミと私が付き合ったとしようか。高校生と大学生では生活リズムも環境も全然違うよね。きっと会えない日の方が多くって、そしたらだんだん疎遠になっていくと思うんだ。破局するのは目に見えてるよ



 教科書を読むような無機質な声で言い終えると、先輩は俺の頭をポンと撫でた。好きな相手だからこそわかる。淡々と語る先輩からは言葉の裏に隠された本音とか愛とか微塵も感じない。俺を優しく見つめる目も異性に向けるものではない。俺は本当にただの後輩でしかなかったのだ。



 ──じゃあ私は行くね。元気で。さようなら



 先輩は微笑むと俺を置いて学校を去った。

 三日経って、俺の抱いていたものは先輩の言う通り恋心じゃなかったと気づく。

 先輩が今どこで何をしているのかはわからないし、知ろうとも思わない。

 あの人は俺にとってもただの先輩だったのだ。


 しかし、この経験はのちの俺を悩ませるには十分だった。

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