第37話声かけずらい人
日曜日の午後一時。俺はなんとかギリギリ秋葉原に到着する。随分と人が多いせいで、あいつらがどこにいるのかわからない。確か駅前に集合だったから、ここであってるはずなんだけど……。
キョロキョロと辺りを見渡して二人の姿を探していると、オタクくんが一人で携帯をいじっている姿が目についた。二次元萌え絵のシャツに、チェック柄の上着。なんだあの格好。俺、今からアレに話しかけるの? めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。
俺がオタクくんに声をかけるのを躊躇っていると、いきなり後ろから。
「何してるの?」
「うわぁ!」
不意に声をかけられ、思わずビックリして声を上げてしまう。
「し、篠原か。いきなり声をかけるなよ」
「知らないわよ。というか私、アレに声をかけたくないのだけど。同類だと思われたくないし……」
篠原がオタクくんを指差しながら、辛辣な言葉を投げかける。いや、俺だってそうだよ。正直今すぐ帰りたいと思ってしまった。でもここまできたら後に引けないじゃん。
「俺だって話しかけたくねーよ。でも、もうここまできたら話しかけるしかないだろ」
そういうと、俺はゆっくりとオタクくんに近づいて行った。
「よ、よぉ政宗くん。待ったか?」
「おお、新藤殿。平気でござる。拙者も今しがた到着したところでござるので」
「そ、そうか……。なら良かった」
カップルの待ち合わせみたいなやり取りをしたところで、俺たちは早速会場に向かった。その間ずっと、オタクくんの美少女フィギュアに対する思いとか、そういうどうでも良い一切興味のない話を聞かされ、俺と篠原はじゃんけん大会が始まる前から疲弊していた。
なんだこの罰ゲーム。貴重な休日を潰してまで、俺はどうしてこんな拷問を受けているんだ? いや、考えたら負けだ。まだ春の残り香が漂う寒い時期だというのに、隣の暑苦しい男のせいで、俺の体はだいぶ温まっていた。
「ここが会場でござる」
オタクくんに案内されて向かった場所は、黒く光り輝くビルだった。この中でじゃんけん大会が行われるのか……。でもまあ、たかだか美少女フィギュアだしな。参加者も、もしかしたら二十人ぐらいなんじゃねーのか?
これなら案外楽に取れるのでは? と思っていざ室内に入場してみると、大量のオタクたちがぞろぞろとひしめきあっていた。
多いいな! 会場は狭いのに、なんで人はこんなに多いんだよ。もっと大きい場所で開催しろよ! 内心で愚痴をこぼしつつも、俺たちは始まる時間まで適当に喋ったりしながら待った。そしていよいよ、待ちに待ったじゃんけん大会が始まった。
「さぁ! 会場にお越しの皆さん! 間も無く数量限定のルナフィギュアをかけたじゃんけん大会が始まります。果たして誰の手にルナは渡るのかぁぁぁぁ!」
やけにテンションの高いお姉さんが司会を務めながら、いよいよ俺たちの戦が始まろうとしていた。
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