第25話逆転!
はぁ、もうダメだ。完全に心が折れて、僕は隠す気もなく露骨に落ち込む。目の前の強敵に勝てる未来が全く見えない。今までの相手には、難なく苦戦することなく勝ててきたのに。
僕は今、生まれて初めて挫折を味わっている。こんな思いをするぐらいなら、最初っから勝負なんてしなければよかった……。
今の一戦で負けたのが悔しくて、ネガティブな思考が次から次へと押し寄せてくる。そんな僕を嘲笑うかのようにして、篠原さんは声をかけてくる。
「あら、先ほどまでの威勢はどうしたの?」
「ははは、なんだか今ので心が折れちゃったよ。君、強いね……」
弱気の発言をしてみると、篠原さんは呆れたような声で。
「なんか、今のあなたとやっても負ける気がしないわね」
もういいわ、これで終わらせるから。なんて、もう僕に興味も関心もなくなったのか、冷徹に言い放つ。はは、何も言い返せないや。僕は負け犬だよ。手札は4のツーペア。もうなんでもいいや。
僕は4以外のカードを捨てると、期待もせずにペラりとめくる。するとそこには、5と書かれたトランプが3枚。––––––––––ッ! フルハウスだ! でもここからが本番。 ここで露骨に喜んだりなんかしたら、それこそ本当の馬鹿だ。勝負は諦めなければ、必ず勝ち筋が見えてくるものだ。
神様はまだ僕を見捨てていない。ゲーム部部長として、こんな同級生の一人に勝てないようじゃ、あの世にいるおじいちゃんに顔向けできないからね!
僕はうな垂れたまま、やる気のなさそうにして。
「ベッド3枚を賭けるよ……」
少なくなったコンタワーを、すべて前に押し出す。さぁ、乗ってこい! 表情では哀愁を漂わせつつ、内心はこれでもかと興奮している。手札的に、必ず勝てる。あとは篠原さんが乗ってくることを祈るのみ……。
篠原さんは、僕の考えなど興味もないように。
「それじゃあ
勝負に乗ってきた。勝てるはず。フルハウスを越える手札なんて、そうそう来ない。しかもこのタイミングで。いや、でも相手はあの篠原さんだ。
何が起こるかわからない。もしかしたらロイヤルストレートフラッシュとか出してくるかも。僕は勝ちを確信出来ずに、内心ドキドキと緊張しながら手札を公開する。
僕の手札はフルハウス。篠原さんの手札はAとKのツーペア。
「か……勝ったー!」
嬉しさのあまり、僕は声を大にして喜ぶ。篠原さんは、負けたことが意外だったのか、驚きを隠そうともせず。
「驚いた。もしかして落ち込んでいたのはブラフ?」
と、僕のことを過大評価するような発言をしてくる。だから僕は、ニヤッと笑みを浮かべると。
「どうでしょう?」
回答をはぐらかす。ふふ、いいぞ。だけど、これでさっきも負けたからな。油断しちゃダメだ。
次のカードが配られると、僕は先ほどと同じようにニヤニヤと笑みを携え、表情を読み取らせないようにする。手札はJのワンペア。だけど、次もいい手がくると確信できた。僕は残りの3枚を捨てると、サッと配られた3枚に目を通す。おお! J がきた。これでJのスリーカード。またも強い手だ!
「それじゃあ僕は、2枚ベッドするよ。篠原さんは?」
「そうね。じゃあコール」
「オーケー。それじゃあはい! Jのスリーカード」
僕が手札を見せると、篠原さんは悔しそうに。
「Kと4のツーペアよ」
パラっと手札を捨てると、コインを僕に渡してくる。おお! これで並んだ! 10対10。勝負も白熱してきて、僕は大一番の賭けに出る。手札はAと9のツーペア。決して弱くない。だから今度は僕が仕掛ける。
「篠原さんは、ベッドしないの?」
「そうね。それじゃあ3枚ベッドするわ」
かちゃっとコインを3枚、参加費のコインの上に乗せる篠原さん。だから僕は、そんな彼女を挑発するようにして、スッと目の前に置いてあるコインタワーを前に押し出す。
「それじゃあ僕は”オールイン”で」
先ほどと立場が逆転する。さぁ、どうする篠原さん! オールインなんて仕掛けてくるなんて、よっぽど手札に自信があると思いこむだろ? 降りるか、乗るか。どっちにしろ、風は僕に吹いている。
この勝負、必ず勝てる。勝負は気持ちで勝ったほうが勝ちなんだ。
「さぁ、どうする篠原さん! 降りた方が、いいんじゃない?」
挑発。僕の発言にムッと不機嫌になる篠原さんは。
「いいわ。その安い挑発に乗ってあげる」
そう言うと、コインタワーを前に押し出した。乗ってきたか。さすが篠原さん。ビビらないね。正直僕の手札は弱くない。基本ポーカーなんてものは、ツーペアしか出ない。それ以上の手札なんて、ジョーカが入っていない限り滅多に来ない。
勝てる! 僕は勢いよく手札を机の上で晒す。
「Aと9のツーペア。篠原さんわ?」
聞くと、篠原さんはこれ以上ないほど悔しそうにして。
「KとJのツーペア……」
パラリと僕よりも弱い手札を捨てるように出した。
「か……勝った!?」
驚きと嬉しさが混合して、おかしな感情になる。まさかあの極限の状況下から勝てるなんて、思いもしなかった。僕が嬉しそうに一人で喜んでいると、篠原さんは納得がいかなそうな表情をして詰め寄ってくる。
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