第16話豚の餌
特になんの説明もされないまま調理室に連れてかれた俺とハム子。
「なんで調理室?」
ハム子が疑問に思っていたことを質問すると、篠原は胸を反らせドヤ顔で。
「『男をつかむなら胃袋をつかめ!』って言うじゃない。金剛先輩に美味しい料理の一つや二つ振る舞えば、きっとオトせるわ」
自信たっぷりに言う篠原だが、俺とハム子は二人して顔を合わせる。そんな簡単に人の心が動かせるなら世の男女は苦労しねえよと、そう言ってやりたいが、なんだかあんなに自信満々だと言いずらい。
まあ別に、実際悪い案ではないと思うし、やるだけやってみて諦めるのも悪くないか。それに、金剛先輩とやらはいい人ではないらしいし、失敗した方がハム子のためにも……。
なんてことを考えていたら、篠原が早速仕切り始めた。
「それじゃあハム子さん。早速だけど、料理を作って見せてくれる? 材料は私たちが用意したから、好きなものを作ってくれて構わないわ」
篠原に言われたハム子は、「任せろ!」とやる気満々で材料を切り始めた。てかハム子にはもうつっこまないんだ。それでいいのか、ハム子……。
俺がハム子を憐れんでいる間に、ハム子は順調に料理を進めており、気がつけばフライパンで野菜を炒めていた。もしかしてこのハム、見た目の割に料理できるのか!? もしかしてハイスペックピッグなのか!?
心の中で失礼極まりないことを考えていると、俺たちの眼前に料理が出された。
「ほら、出来たぞ!」
出来たぞ……と言われ、出されたそれは、料理としての体裁をを保てていなかった。なんだこれ? さっきまで野菜炒めてたよね? どこ行ったの?
これは食べ物じゃないなと思ってしまったが、そう思ったのは俺だけではないようで、篠原は声に出して目の前の料理もどきを貶し始めた。
「えーと、これは何? 生ゴミ? それとも豚の餌? もしかして自給自足?」
「ふッふふッ!」
篠原の容赦ないディスりに、思わず笑ってしまった。コイツ、いいパンチ打つな。
料理を作った者の前で、その料理を貶す奴と笑う奴。側から見れば、俺たち最低だな。これはまた昨日のように怒られるかな。俺は笑い声をなんとか収めると、ハム子を一瞥する。
しかしハム子は、怒るでもなく悲しむでもなく、落ち込んでいる様子だった。
「うるせーなー。料理なんかしたことなかったんだよ。だいたいお前ら、人のこと馬鹿にしてるけど、料理できんのかよ」
ハム子が「どうせ出来ないだろ」と挑発交じりに言うと、篠原はガタッと椅子から立ち上がり。
「私を誰だと思っているの? あの篠原美佳子よ! 料理程度、お茶のこさいさいよ」
胸に手を当てて、自信満々に言い切る。
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