第52話流れる血

ある広い部屋でレイミヤは目を覚ました。


「ここは。」


そこは、玉座がある王の一室だった。

部屋の明かりは無く、暗い暗い部屋にただ一人レイミヤは目を覚ました。

レイミヤは自分が何故ここにいるのかわからなかった。

眠る前までのことを思い出そうとするが少年に助けられたことしか思い出すことができずにいた。


「確か追い詰められて、あの子供は!?」


辺りを見渡すがあまりの暗さで何も見ることができなかった。

目の魔力を集め周りを見ようとするが、魔力が定着しずらくなっていた。

そのせいで、魔力を一か所に集められなくなっており魔力眼が使用できなくなっていた。

暗さで不安になったレイミヤは立ち上がりゆっくりと部屋を歩き始めた。

すると後ろで一本のろうそくに火が付いた。

それに気が付くとゆっくりとロウソクに近づき始めた。


「誰かいるんですか!?」


しかし誰からの返事は帰ってこなかった。

恐る恐るロウソクに近づいていく。


「今すぐここから逃げるよ。」


ブエルが突然レイミヤに声をかけてきた。

レイミヤは突然の声に驚いた。


「ッ!!ブエル、いきなり脅かさないでください。」


「今ならあいつはここにはいない。今しかないよ。」


ブエルはレイミヤと話す暇がないくらい焦っていた。

まるで怯えるようにブエルの声は震えていた。


「あいつというのはいったい誰なんですか?それに逃げようにもこうも暗くてはまともに歩くことすらできないのですよ。」


レイミヤはその場に立ち止まりブエルに訴えた。


「大丈夫、それは何とかするから。目を閉じて。」


レイミヤはブエルに言われるがまま、暗闇の中で目を閉じた。

ブエルはレイミヤに一つの魔法をかけた。


「ヴィジョーネ・ノット―ルナ さあ、目を開けて。これなら問題ないはず。」


レイミヤは目を開くと先ほどまで暗かった部屋がまるで昼間のように明るくなったかのように見えた。


「ブエル、魔力眼が使用できないのはいったいどうゆうことなんですか?」


「それは、歩きながら話すから今はとにかくここから離れるよ。」


ブエルにせかされたレイミヤは部屋の出口を目指して走りだした。

扉を抜けるとすぐに分かれ道に着いた。


「そこを右、次は真っすぐ。」


迷っているレイミヤにブエルは行き先を教えた。

その言葉には嘘は感じられずただ、早くこの場所から離れたいと願うような思いが感じられた。

そのあともブエルはレイミヤに道を教えながらレイミヤを走らせた。


「今この城全体に魔力妨害の結界が張られているの。だから、魔力眼のような一か所に魔力を集中させるような魔法は使うことができない。もちろん、さっきかけた魔法もそう長く持たない。でも大丈夫、外れたら何度でもかけるだけだから。安心して前だけ見て、言った方向に進みな。」


「わかりました。続けて案内を頼みますよ。」


レイミヤはブエルに案内され走り続けた。

しかし、先ほどから走り続けてはいるが一向に出口に着くことはなく誰一人としてあうことはなかった。

広い城に誰一人として人がいないのは不気味だった。

しばらく走り続けていると広い円形の部屋にたどり着いた。


「あたしとしたことが、これも妨害のせいか。」


ブエルは部屋に着くと何かを感じ取った。


「なんですか?次はどこに行けばいいんですか。」


レイミヤは部屋を見渡すが何も部屋にはいなかった。

あるのは槍や剣を持った甲冑が壁に沿うように並べられているくらいだった。

その数は、20いや30の甲冑が並んでいた。

その中の一つだけが黒く塗られていて他のとは別格の何かを感じた。


「いいかい、何が何でもあいつに捕まるんじゃないよ。」


その一言を残してブエルは一言も話さなくなってしまった。


「ブエル?あいつというのはいったい誰なんですか?ブエル、答えてください。ブエル?」


黙るブエルにレイミヤが話しかけているとレイミヤが入ってきた部屋と反対側のドアが音を立てながら開き始めた。

レイミヤは慌てて近くの甲冑の後ろに身を隠した。

部屋に入ってきたのは追い詰められたレイミヤを助けた少年だった。

少年がただ一人部屋に入ってきたのだ。

少年はゆっくりと歩き部屋を見て回っていた。

レイミヤは少年の様子を見るために甲冑の左から右に覗く向きを変えると先ほどまでいたはずの場所に少年の姿が消えていた。

レイミヤは隠れるのをやめ部屋を見て回るとやはり誰一人の姿を見つけることはできなかった。


「あの子はいったいどこに行ったの?」


レイミヤはもう一度部屋を見渡すとレイミヤが見ていないところで甲冑の一つが崩れた。

驚いて後ろを向くが誰もそこにはいなかった。

崩れた甲冑にレイミヤは近づいて行った。


「ねえ、お姉ちゃん。」


突然レイミヤの後ろから声が聞こえた。

あまりの突然さにレイミヤはその場で腰を抜かし、尻もちをついた。


「大丈夫?」


少年はレイミヤに近づき手を指し伸ばした。

レイミヤは少年の手に捕まることなく立ち上がった。


「あなたは、いったいどうしてこんなところにいるんですか?」


レイミヤは、少年と目が合うように腰を落とした。

少年と目を合わせると、突然頭痛がした。

その時、レイミヤは少年に助けられた時の記憶を思い出した。


確かあの時誰かに口を押さえられて、それで眠ってしまい。


薄れゆく意識の中で最後に見たのは少年の顔だった。

思い出したレイミヤは、立ち上がり少年の方を向いたまま後退りをした。


「どうしたの、お姉ちゃん?」


どんどん距離を置くレイミヤを見て少年はレイミヤに近づいて行った。

レイミヤも止まることなく下がっていく。


「それ以上知数かないでください。わかっているんですよ、あなたが私を眠らせたことも。いったい私になにをしようというんですか?」


そしてとうとうレイミヤは部屋の壁にぶつかり壁に沿うように今度は逃げ始めた。


「あーあ、ばれちゃってたのか。姿は見られてないと思ったんだけどな。もうこんな格好してもしょうがないか。」


少年はレイミヤから一瞬だけ姿を隠すように甲冑を横切ると次に姿を現せたのはクロセルだった。


「この姿で合うのは2回目だよね?初めて見たときから君が欲しかったんだ。それも今ようやくかなう。

全く使えない連中だよ、女一人もすぐに捕まえることができないなんて次は厳選が必要だな。俺の言うことを聞いて、素早くことを成し遂げる奴だけを残して後は処分するか。後で、パリアッチョに命令しておくか。

あーごめんごめん、独り言が長かったかな?」


クロセルはレイミヤに向けて笑顔で歩き始めた。

近づいてくるクロセルに対してレイミヤは魔法を唱えた。


「我に害為す敵に光を、ランペジャーレ」


しかし、魔法は発動しなかった。


「なんで!?」


ブエルが言っていた魔力妨害のせいでレイミヤは魔法が使えなかった。


「ごめんね、何が起きるかわからないから魔力妨害の結界をこの城全体に張っているんだよ。」


魔法が使えないとわかったレイミヤは腰元から短剣を取り出しクロセルに立ち向かった。

剣を持ったレイミヤを見てクロセルは脚を止めた。


「おいおい、そんな物騒なものをしまってくれ。」


クロセルは[パチン]と一回指を鳴らした。


「ほらこれで結界はなくなった。好きなだけ魔法が使えるぞ。」


クロセルはレイミヤが自分の命を脅かす存在ではないとみて油断していた。


「あなたの事を信じることなんてできるわけないでしょ。」


「実はな、あの結界は俺自身も魔法が使いにくくする諸刃の剣のような魔法なんだよ。その証拠にほら、こんなに魔力を集めることができるだろ?」


クロセルはレイミヤに見せるために片手に魔力を集めた球を作り出した。

そして作り出した球をまるでボールのように両手を使って遊ぶと天井に向かって飛ばした。

その球は天井に当たると天井を弾き飛ばした。

部屋に大きな風穴をあけて。

それでもなお、レイミヤはクロセルに剣を向けていた。


「全く、しょうがない子だな。」


クロセルはレイミヤに近づいて行った。

レイミヤは今度は逃げることなくその場に立ち止まりクロセルに剣を向け立ち向かった。

レイミヤはクロセルめがけて剣を前に出し刺そうとするがそれをクロセルは指2本で止めた。


「ほら、無駄なことはやめなって。」


クロセルはまるで何事もないかのように話した。


「ランペジャーレ!!」


レイミヤは閃光の魔法を使いクロセルは、間近でそれを目にした。

あまりの眩しさにクロセルはナイフから手を離し両手で両目を押さえた。


「なんだ!何が起こった!?」


レイミヤは間髪入れずもう一度クロセルにナイフを振った。

今度はクロセルの右肩から左胸にかけてナイフを振った。

しかしクロセルはナイフを避けた。

クロセルはナイフを避けるとレイミヤからいったん距離を取った。

そうしてクロセルは目を元に戻した。


「ほら見ろ、君の攻撃なんて見ていなくたって避けることはできるんだよ。」


そういうクロセルの頬を生暖かい何かが流れた。

クロセルはそれを拭きとるとそれは血だった。

クロセルは自分の手に付いた血を見て顔を下に向けその場で立ちつくしてしまった。


「いくら相手との差を目の当たりにしたとしても私は絶対にあきらめません。」


レイミヤはそんなクロセルを見て剣を向け走り出した。

レイミヤの剣がクロセルに当たる瞬間レイミヤの頭と胴に何かがものすごい勢いで飛んできた。

そのままレイミヤは床に弾き飛ばされた。


「いったい何が。」


レイミヤ頭から血が流れ飛んできたものを見た。

それは飾られていた甲冑の一部だった。

クロセルは甲冑を飛ばしレイミヤにぶつけレイミヤを弾き飛ばした。

飛んできた甲冑は浮き上がりクロセルの元に飛んでいきクロセルの周りに元の形に戻った。

そうしてレイミヤはその場で気を失ってしまった。


「よくもこの僕の顔に傷をつけてくれたな。貴様だけは今まで通りににはいかないからな。いくら気を失ったからと言ってやめると思わないことだな。」


気を失ったレイミヤにクロセルは近づき頭を鷲掴みにして持ち上げた。

そしてその場を去ろうとするクロセルの前に天井の穴から誰かが飛んできた。

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