129食目、海老とマッシュルームのアヒージョ
「〝エビチリ〟をお気に召されたようで、次はこちらをお試しを」
テーブルを焦がさないよう鍋引きを引き、小型のフライパンの一種であるスキレットをそのまま置いた。
スキレットの中身は、グツグツと油っぽい液体で
それに油っぽい液体から食欲を煽って来るような香りが漂い、フォルス様とタマモ様はスキレットの中身に釘付けとなっている。
「こちらは〝
「この液体は水じゃなくて油かや」
「えぇ、その通りです。ニンニクや鷹の爪で風味や味付けしたオリーブオイルという油で魚介類や野菜、お肉等々を煮込むのです。今回の具材は、これだけですが色んな食材で楽しめて頂けます」
見た目と反してアヒージョは、食材が揃えば簡単に作る事が出来る。
ただし、この世界ではオリーブオイルを見掛けた事がないので難しいかもしれない。
「油で煮込むとは面白い事を考えつくものじゃ」
「でも、油だから太りそうよね」
「いいえ、オリーブオイルはヘルシー━━━つまり、太り難いのです。そして、アヒージョに合う飲み物と言えば、ワインになります。今回のは60年ものの赤をご用意致しました」
アヒージョの本場はスペインだ。スペイン料理のアヒージョがワインに合わないはずがない。
「ほぉ、これは果実酒か?どれ、妾は酒には五月蝿いぞ」
「私も頂くのよ」
アヒージョを一口パクりと口に放り込み、ワインをグビッと飲んだ。
ワインソムリエも経験した事があるカズトからしたら作法があったもんじゃないが、ここは地球でなく異世界アギドだ。
地球の作法は、もちろん通用しない。異世界アギドに来てから地球の作法は棄てた積もりでいたが、心の奥底では心苦しいものが貯まって行くような感覚を覚える。
「ぷはぁ、これはタダの果実酒ではないのぉ。これは、今まで味わったどの果実酒よりも味わいが深いのぉ」
「本当なのよ。どんな魔法で作ったのよ」
「いえいえ、ちゃんと人の手で作られたものでございます」
こちらの世界の表現で理解が及ばない事になると諺や四文字熟語みたく、『魔法で○○やった』『魔法で○○作った』と言う事があるらしい。
もちろんカズトが用意した赤ワインは魔法で作った物でなく、人の手で懇切丁寧に仕込まれたワインだ。不味いはずがない。
だがしかし、この世界で作られた物でなく地球産だ。カズトの【
「うーん、香りも素晴らしいのぉ。これを飲んだら、今までの果実酒が、まるで小便と思えるわい」
「この〝
こちらの果実酒は実のところ飲んだ事がない。遠目で拝見した事がある程度だけど、香りを嗅ぐだけで飲む事を断念した。
料理人として、おそらくフォルス様が言う果実酒を飲むと吐くかもしれない。あの香りは、
「宜しければ、こちらの〝フランスパンバケット〟もお試しを。アヒージョのオイルをお塗りでご賞味ください」
フランスパンを薄く斜めに切り揃えたものを皿に乗せ提供する。
これでオリーブオイルも味わえ、
食べる者によっては多少辛味が強く感じ過ぎるかもしれないが、そこはワインで調和するから問題ないだろう。
「ほぉ、油で煮込むにも驚いたがパンに浸けるとか何とも面妖な」
「あそこに並んでるパンとは、また違うのよ?パンって二種類しかないのかと思っていたのよ」
カズトも異世界アギドに来てから〝スープで浸しながら食う硬い黒パン〟と〝【白の秘技】により創られる味気ない白パン〟の二種類しか聞いた事しかない。名称は、ただ単に黒パンと白パンだ。
そんな事実に料理人であるカズトは、カルチャーショックを受けたものだ。
地球では国々で作られるパンは違う。それに加えカズトが産まれ育った日本で作られる菓子パンやお惣菜パンを加えると、パンの種類は無限大に近い数になるだろう。
「これで合ってるかのぉ?鼻が利く犬人族コボルトらなら香りがキツいかもしれんが、これはクセになるのぉ」
「私には、匂いがキツい程でないにしろ気になるのよ。でも、匂いを我慢すれば美味なのよ。食べた後にワインを飲むと美味しさが倍になるのよ」
ニンニクと唐辛子の一種である鷹の爪が入ってる以上、匂いを敏感に感じる種族にはキツいかもしれない。
だが、一回食べれば好きなる。絶対になる。
地球に存在する匂いがキツい食べ物で有名な物を挙げると、クサヤ・ブルーチーズ・納豆・ピータン等々がある。これらは、流石にフォルス様とタマモ様のお二人にでも無理だろう。
匂いの先にある美味にたどり着く事が出来るなら、クセになり好物になるかもしれないが、そこに辿り着くのに大きな壁がある。
だけども、匂いが衣服にも染み着くしで、王族・貴族には、おそらくオススメしない方が良いだろう。
まぁどうしてもという方だけ、自己責任という形であればオススメしたい。あくまでも自己責任だ。カズトは一切責任は取らない。
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