SS3-2、魔王の娘の軌跡~剣の勇者に辿り着くまで~魔王の娘、魔王城脱出する
「ぬお、こ…………これは!」
壁のフックに掛かってあるクロークを手に取った瞬間、縮んだのだ。それも手に取ったリリーシアのサイズピッタリに。
この現象は、何らかの魔法が組み込まれてないと起きない。
だが、リリーシアの鑑定で見ようにもウンともスンとも反応がない。ただ名称が『クローク』と提示されるだけだ。
「もしや、【鑑定妨害】の魔法が掛かってるのか!しかも、妾の鑑定を妨害しうるレベルの…………信じられん」
【鑑定妨害】は、文字通り鑑定をされてもステータスを見れなくする魔法だ。
ただし、相手の鑑定レベルが高いなら妨害出来ない。
そこのところが多少使い勝手が悪い魔法だが、レベルを上げさえすればそこそこ使える魔法である。
地球のように個人情報保護という概念はないのだから。
「意外と使える代物かもしれぬ。持って…………いや、直接着て行こうではないか」
バサッと魔王形見のクロークを羽織り、それ以外の宝物はアイテムボックスへと仕舞い込んだ。
何となくだが、ゴミと見下していた金の延べ棒も全部放り込んだ。
「父上の死亡が知れ渡るのも時間の問題じゃな。そしたら魔族の下民どもが魔王城へ雪崩れ込んで来るかもしれぬな」
魔族の王━━━魔王とは魔族の中で最も力のある者と魔族全域の見解である。
よって、我と先にと魔王城へやって来ては殺し合いという魔王決定戦が勝者一人なるまで行われるのが魔族の本能というべき行動だ。
敗者は黙って強者に従う。魔族の国は常に弱肉強食なのである。それが魔族の掟であり本能なのだ。
その疑いもしない本能は、実は作られた偽物であっても……………。
「さてと、妾は死にたくないのでな。そろそろこの国を脱出するかの」
リリーシアにとって魔族の国なんて庭みたいなものだ。幼少時からお転婆で遊び回っていた。
よって、目を瞑ったままで歩けると豪語する程に知り尽くしてる。
他の魔族が知らない抜け道なんかも知っており、関所や国境付近でもバレずに抜け出せると自信がある。
リリーシアは宝物館を後にすると、魔王の形見であるクロークに付与してある魔法の一つ:透明化を起動、透明魔族と化し廊下を走り抜け魔王城を抜け出す。
「うむ、急に透明になったのは驚きしたが、そのお陰で楽に脱出出来そうじゃ」
透明になったとしても音や匂いまでは消せない。リリーシアは慎重を期し、人気ひとけがない通路を走る。
息を切らしながら城下町まで到着すると、もう魔王が死んだと伝達があったのか夜中だというのに騒がしい。
リリーシアは見つからないよう建物の物陰へと身を隠す。いくら透明になっていても、こんなに人影が多いと何かの拍子に見つかるかもしれない。
よって、しばらく息を殺して様子を見る事にした。
「おい、魔王様が死んだって本当か?」
「あぁ、間違いねぇ。幹部と黒騎士隊が城へ突入したところ…………壮絶な闘いがあったのか城の中は崩壊していたらしいって話だ。恐らく勇者の仕業だろう」
「魔王様が死んだなら…………リリーシア様はどうなったんだ?まさかリリーシアまでも…………」
「いや、リリーシア様は行方不明らしい。幹部や黒騎士隊が捜索してるが、見つかってない」
(妾を探してるのか…………幹部なら兎も角、黒騎士隊まで出てくるとは、予想外なのじゃ)
黒騎士隊とは、魔族の中で選ばれしエリート中のエリート集団。
その強さは下手すると幹部と互角かそれ以上だ。幹部を除けば魔王予備軍とも呼ばれている。
「お前行くか?次期魔王になるための殺し合いに」
「バカ言え。幹部や黒騎士隊に勝てる訳ねぇだろ。死にに行くものだ。それよりもリリーシア様を捕まえた方が、まだ利口だ」
「そうだな。リリーシア様を黒騎士隊に渡せば、何か報酬が貰えるだろう」
(こやつら!妾を誰と思ってるのじゃ)
この二人以外にも似たような話をしてる魔族がちらほら見受けられる。
今の話を聞く限り、このままココにいたら村八分に合いそうだと感じるリリーシアは、早速行動に移す。
城下町を抜ければ、街道を通らず山道を通り隣の国へと行ける。
魔物モンスターは出没するが、リリーシアの実力なら問題無く行けるはずだ。
(ここを通れば、もうすぐ抜ける!)
と、思った瞬間横路から誰かが出て来た。
「リリーシア様、お待ちしていましたよ」
リリーシアの行き先を塞ぐのは、黒い甲冑を身に着けた20代後半程の男だ。顔は兜を被っており、ハッキリと判別出来ないがイケメンの部類に入るだろう。
武器は槍のようで刃は暗い中で赤く薄気味悪く光り、柄には複雑な彫刻が施されてるのが分かる。
これはただの槍ではなく、魔槍の部類だと推測出来てしまう。
「バレてしまってはしょうがないのぉ。何故ここにいるのじゃ?黒騎士隊隊長ベアード」
【透明化】を解きベアードの前へ姿を現すリリーシア。
目の前の男:ベアードはリリーシアが証言した通りに黒騎士隊を率いる隊長だ。【気配察知】により透明だったリリーシアを見つけたようだ。
「それは簡単ですよ。貴女を…………リリーシア様を殺やるためですよ。魔王様が亡き今、貴女が邪魔でしてね。特に怨みはないが、死んでいただきます」
「そうか、妾も死にたくないのでな。ここは抵抗してもらうかのぉ」
リリーシアはアイテムボックスから魔剣グラムを取り出し構えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます