13食目、自慢の温泉
チャプチャプ
と、お風呂というか温泉と言った方がしっくりくる大浴場だ。乳白色でいかにも本格的な温泉であり、湯船は岩肌で出来ており何処かの高級旅館を思わせる作りだ。
周囲は外からは覗き見出来ないように背が高い石壁で囲まれているが、屋根は吹き抜けで雲が無い日には月や星が綺麗に見えるようで風情である。
まるで、日本にいるようだが異世界アグドであり、しかもレストラン〝カズト〟の中なのだ。正確に言えば、2F以上のフロアに一つずつ存在する。
温泉が実現出来たのもミミのお陰だ。ミミの魔法、空間魔法で源泉とここを繋いであるのだ。
ミミによると「ワープを応用しただけ」と言っているが、魔法に関してカズトはチンプンカンプンだ。
後はチョコチョコ温度調節する魔法を掛けて丁度良い温度に調節したらしい。
この世界の宿泊施設では湯船自体が珍しく、まず一般市民が入る事は出来ない。王族やそれに準ずる貴族の屋敷のみあると言われている。
そして今入ってるのは
熱した石に少量の水を掛け蒸発した蒸気と地球に実際に存在する白樺に良く似たバーチという植物の葉で体を軽く叩くように浄めるのが普通らしい。
「ふむ、湯に浸かるのも悪くないのぉ。むしろ、湯の方が気持ち良いのじゃ。妾の家にも作れんものか?」
「私も湯がこんな気持ち良いものだとは初めての体験です。流石に咲夜城に作る事は無理でしょう。物理的にこんな大量な水を湯に変化させる事はシェールの技術では無理でしょう」
「………無理かのぉ」
「私も………あったら嬉しいですが………無理ですね。大量の魔石かそれ以上の魔法使いが必要になりますから」
シャルの言う通りで、こんな大量の水をお湯へと維持し続けるとなると大量の火属性の魔石が必要になる。魔法使いでも論理的にいけるのだが、燃費が悪すぎて現実的ではない。まだ魔石の方が財力さえあれば叶えられるので現実的だ。
ついでに魔石とは、魔物が持ってる魔力が結晶化した石みたいな物で魔物なら大なり小なり持ってる。いろんな燃料になる他、魔法が使用出来ない者でも魔法が使用出来る。
しかし、強力な魔物程、魔石は大きくなり高価になる。一攫千金を狙って大きな魔石を狙う冒険者もたまにいるが、そんな者は大抵返り討ちに合い死んでしまう。素人が良くやる事だ。玄人は身の丈に合った獲物を狙う。
だから、大抵市場に出回るのは小粒な魔石が大半を占める。大粒な魔石は大金持ちな貴族や王族に回ってしまう。本当に大物になってくると国宝指定される事もしばしばある。
「それにしても………どうやってこんな大量の湯を作ってるんでしょうか?」
「そんな事は些細な事じゃ。今はこんな気持ち良さを楽しこもうぞ」
シャルが疑問に思った通り、貴族や王族でない限りこんな大量の湯を維持出来ないと思うのが普通である。
アグドの全国では、地中から源泉を堀当てるという考え事自体が存在しない。よって、この温泉がどうやって維持してるのかこの世界の住民には理解出来ないだろう。
ただ例外は存在する。それは………魔法で他人の記憶を覗き見出来るミミだ。カズトの記憶を覗いて温泉の存在を知り、この温泉というシステムを作りあげたのだ。
ミミやカズトが話さない限り、この温泉を真似出来ないだろう。もし、拷問等で無理矢理引き出そうとしても相手は勇者一行だ。逆に返り討ちに合うのが目に見えており誰も知ろうとしない。知ろうとする者がいれば、それは………ただのバカか愚か者だ。
ガラガラと急に扉が開き、ビクッとアリスとシャルの二人が振り向くと温泉に入って来たのは、レストラン〝カズト〟の従業員の一人であるドロシーである。
「湯加減の方はどうですか?」
「うむ、ちょうど良いのじゃ」
「えぇ、こんな気持ち良いのは初めてです」
「それはよろしゅうございます。それでは………こちらをお試しを」
ドロシーの手にはお盆が乗っており、その上には徳利と御猪口がある。つまり、日本酒を飲みやすいように温めてアルコールをとばした熱燗というヤツだ。これほど温泉にピッタリな飲み物はにいだろう。
「熱燗でございます。どうぞ、お飲み下さいませ」
ドロシーはお湯に浮かびやすい木のお盆を浮かべ、そこに熱燗と御猪口を二つ乗せた。
「温泉には、こんな楽しみ方もあるのか。素晴らしいのぉ」
「えぇそうですね。素晴らしいが上に名残惜しく思います」
そうなのだ、アリスの父親が来れば強制的に帰る事になってしまう。まぁまだ来れば良いだけの話なのだが、位が高い者になるとなかなか難しいだろう。
「父上が来るまで………悔いが残さないよう楽しむのじゃ」
「はい、姫様の言う通りでございます」
アリスとシャルの二人は熱燗を片手に月見酒を楽しむのである。
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