第13話 神官殺し


 神様が自然現象に過ぎないように、神殿も私の思う寺院とは全く違っていた。それは基地局に近い。

 ビッツィーはこう云った。

「私達は、神様と呼ばれた力を、利用して術式社会を形成している。だから神様をまつった神殿というのは重要な意味を持つわけ。社会的にね」

「社会的に」

 それほど魔術が社会に溶けこんでいるという事だろう。

「確かに昔は、信仰の為の施設だったけど、今の神殿ってのは最高峰の魔術式を搭載(とうさい)するハイテク基地なわけよ」

「ハイテク」

「ハイテク。しかも神殿ごとに特徴が全く違う。だから、そんじょそこらのヤツには神官は務まらない。努力だけでも駄目。神殿ごとの神様に適合できる人間でないと駄目なわけ」

「それは何というか大変だね」

「話にならないでしょ。社会にとって重要な癖に、特別な人間にしか扱えない技術なんて。改善すべきなんだけど、まあ今はこの方式で廻すしかない訳。もしこの神官が居なくなると神殿の機能は大きく損なわれる事になる」

「その神官が殺されたの?」

「そう。まあ、噂ではそうらしい。それで学会警官エイポが出て来てるんだろうね」

「犯人が捕まっていないという事?」

「でしょうねえ。私達なんか露骨ろこつに怪しいから、厄介やっかいな事になるかもね」

「厄介?」

 ビッツィーは法を犯しているらしいから、そうだろう。

「ノリコの髪も法に引っかかるかもね」

「え?」

「その魔術式、普通なら持ち運びにも厳重な制限をつけられる程のモンよ」

「え。捕まるの? でも自然現象なんでしょう」

「捕まえるというか保護ね。魔術学会はあんたを研究したがるでしょうし、危険視もするでしょう。人間の転生者って例が無いから」

 私は少し考えてみた。

 今、あの広場へ下りて行って事情を話したら如何どうなるだろう。

「それでも保護には違いないからね。生活の保証だってして貰えるし、メリットはあるわ」

 とビッツィー。確かに私が警察へ行くのは自然な事ではあった。

 ビッツィーは続けて、

「まあ、今決めなくても、気が変わった時に保護を求めればいい訳だけれど」

 私はもう一度、双眼鏡を覗いた。

 云い争いは掴み合いに発展していた。

 もみくちゃにされながらも警官は罵倒ばとうを続けている。ここではちょっと描写できないような、卑猥ひわい侮蔑的ぶべつてきな動作をしている。

「……あの人に、保護されるんなら嫌だな」

 ビッツィーは強いて出頭は勧めなかった。

「ならその術式、というか髪は隠しておいた方が良いわね。クラウス家の長男は都の学校で魔術を学んだらしいし、興味を持たれても面倒だから」

 そう云って頭にスカーフを巻いてくれた。

 私は他人に物を貰うのが苦手なたちだったが、ビッツィーからは平気だった。契約を結んだ相手だからかもしれない。スカーフからは蓮の香りがした。

 その時、ちょうど村の方から男の悲鳴が響いた。

「いい蹴り入った」

 双眼鏡を覗くと、女性達が学会警官エイポを押さえ込んで、助走をつけたキックを御見舞いしている所だった。


 警官エイポは私達に会わないまま逃げ帰っていった。

 私は後々になっても考える。

 この時出頭していたら、運命はどう変化していただろうか?

 私と、ビッツィーと、そしてフランソワの運命は。

 警官エイポが去った後、来客があった。ノックののち入ってきたのは、まさにクラウス家の令嬢フランソワだった。彼女は輝くような笑顔を持った女の子だった。

「今日は私と遊びましょう」

 

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