シャーペン先生
宏明(高3)は勉強机に向かいながら嬉々としつつ、シャーペンの側面についた小さなボタンを親指で押す。
「古墳時代の人々は、竪穴式住居や高床式倉庫を集落に作って住んでいました」
彼が耳に装着するワイヤレスイヤホンから、AIのように堅い音声がそう聞かせている。
「ありがとう、シャーペン先生」
彼はシャーペンに感謝しながら、日本史のドリルにある2つの空欄にそれぞれ「竪穴式」「高床式」と埋めていく。
「シャーペン先生って、やっぱり素晴らしいな。何でも教えてくれるから。受験本番のときもよろしくね」
このときはまだ5月だったが、宏明はもう第一志望への合格を確信した様子だった。
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大学入学共通テスト当日。彼は当たり前のように順調に答えを進めていた。
「C、A、D、D、B」
宏明はハイスピードで答えを進めていく。ところが監視のために彼の横を通り過ぎた試験監督が、そのシャーペンを見て目の色を変えた。そしていきなりシャーペンを取り上げる。
「あっ、ちょっと!」
「やはりシャーペン先生だな。デザインでわかるんだよ」
試験監督は怒りを内に秘めた声で言った。
「参考書やテストなどの答えを何でも教えてくれる装置なのはわかっている。これはれっきとしたカンニングだ。開発者も訴えられているのは知っているだろう?」
「いや、そ、それは」
「言い訳はなし! さっさと来なさい!」
試験監督は宏明に喝を入れると、問答無用で教室の外へ連れ出した。
シャーペン先生は、モラルまでは教えてくれないようだ。
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