第20話「香取での戦い」
修達が香島神宮で怪異に遭遇し、死闘を繰り広げていた頃、利根川を挟んだ南の地域、かつては香島神宮と並ぶ武道の聖地であった香取神宮跡には、武装した男たちが集まっていた。
男たちは外見から大きく二つの集団に分けられ、片方は黒を基調としたボディーアーマーやヘルメットで身をつつみ、手にはサブマシンガンを持っていた。銃器に詳しいものが見たならばそのサブマシンガンはMP5という名称であり、この銃を装備しているこの集団は警察の特殊部隊であるSATに違いないと見当をつけることだろう。
しかし、特殊部隊に詳しい者たちもこの男たちのある一点には疑問を抱くだろう。SATと思しき男たちの腰には刀が下げられていた。
日本刀は銃器を持った凶悪犯を相手にするのには射程等の問題で不利な武器である。かといって銃器を持っていない犯罪者に対しては過剰な威力である。
そのため近年では半ば儀仗部隊と言われていた抜刀隊しか装備していなかったし、その抜刀隊が壊滅してからは警察の装備としてはもはや滅んだ過去の遺物のはずだった。
そして、もう片方の集団の服装は統一されておらず、すでに制圧されていた。
気絶している者やうめき声をあげている男達は拘束され、近くに停めてあるトラックの中に運び込まれていた。少し離れた所では制圧された男達の武器が集積され数人で分類・記録の作業がされている。
武器も統一感は無く、拳銃や切り詰めたショットガン、日本刀やパッと見には武器に見えないものまで種類が豊富だ。
黒服の男達の中に明らかに毛色の違う男が二人混じっている。一人は迷彩服の若い男、もう片方の男は道着姿に二本の刀を差した二メートルを超す男、太刀花則武であった。
「うまくいきましたな。
「ああ。既にこの地には神域としての力が失われている。復活されたら厄介なことになっていた。アメリカから急いできた甲斐があったというものだ」
「増援部隊をヘリで待機させてたけど無駄になりましたね。ま、何も無いのが一番ではありますが」
「ここが襲撃されるという情報は罠と思ったんだがな。わざわざ防衛隊の基地に突入して捕獲されるなどあり得ない事態だからな」
「まだ尋問中ですが、なんでも何者かを追いかけて入り込んでしまったとか」
「ここで逮捕した連中からも情報を仕入れなくてはならないな」
「そう簡単にしゃべるとは思えませんがね」
「拷問すれば……というのは出来ないだろうが、持ち物から何でもいいから情報を仕入れねばならない。これだけの組織だ必ず裏がある」
則武たちが今後の方針について話し合っている時、近くに停車していた車からSAT隊員が顔を出して無線を片手に呼んできた。
「隊長。茨城県警からの情報提供です。香島神宮に不審者や正体不明の怪物が現れたと近くの交番に民間人からの通報があったようです。神主の那須氏も重傷をおって運び込まれたようです」
「なにっ。こちらは囮だったということか」
「二正面作戦だったのかもしれんな。囮にしてはこちらの勢力もかなりのものだ」
「通報者は何者だ? 口止めをしなければならないから交番に留め置くように伝達しろ」
「今確認します。はい……。はいはい……。通報者は那須氏の娘、那須辰子と、太刀花千祝? 隊長! 太刀花先生の娘さんが通報者のようで、また香島神宮に戻ったようです。さらに境内では娘さんの友達だという学生が戦っているようです」
「中条さん。ヘリを待機させていたと言いましたね?」
無線でのやり取りを横で聞いていた則武は迷彩服の男、中条二尉に尋ねた。
「すぐにヘリを呼び寄せてください。香島に封じられているのはヤトノカミ。神域で力を発揮できないうちに封じねば」
「了解しました、すぐにこちらに向かわせます」
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