納品

 ギルドの建物の前でやってきた。

 ドアを開けようと手にした途端、逆にドアが開いた。

 中から日差しを眩しそうにするベックマンが現れ、子どもたちが驚いた。

「おう、アセリア」

 背を建物に預け、何やら考え事でもしているのか腕組をして地の一点を見つめている。それから小さな欠伸をして上を向いて深呼吸をし、アセリア達の麻袋にようやく気がついた。

「また野菜か。お前らそれほんと好きだよな」

「今日は違う。ほらあんた、早く見せてやってくれ」

 ノアが言うので自分の持つ麻袋から布に包まれた聖水入のフラスコを見せた。

 ベックマンは一瞬それが何かわからなかったが、映る鮮やかな黄色い液体を見るとすぐに察し、建物の中に入れてくれた。

 中はあいも変わらず閑散として寂しいもので、ここはどのようにして経営しているのか気にある。ノアと男の子が壁に掛けられた剣や盾に見惚れている中で、アンネはカウンターの後ろに飾ってある綺麗なワイングラスの数々に目を輝かせた。

「ここは孤児院じゃねえぞ」

 ベックマンが戯言を言うがアセリア以外にはそれが分からず、聞き耳もたない状態で各々の熱中するもに一生懸命であった。

「それじゃあ他のも見せてくれ」

 アセリアは頷き、全ての聖水を丁寧にカウンターへ並べた。

「一つ多いぞ」

「作りすぎてしまいまして、こちらも納品いたします」

「……そういう事ならもらおう。それと質問がある。色がそれぞれ微妙に違うのはなんでだ?」

 色の濃いものと最も薄いものが列から外れ、アセリアの前に置かれた。

 聖水のよしあしを説明したところでベックマンにそれが理解できるのだろうか。

「色の差についてですが、これは効能によるものです」

「効能?これらは聖水なのだろ?」

「はい。全て聖水で間違い有りません。確認もしました」

「聖水については信用しよう。効能っていうのはどういう事だ?」

「文字通り聖水の効果の出来栄えです。出来の良いものほど濃くなります」

 ベックマンは頭を掻きながら、考えはじめた。

「その薄いやつも聖水として使えるってことでいいんだよな?」

「はい、おそらく」

「ま、いいだろ。依頼は5つだったからな」

 満足そうにベックマンはそれらを奥の部屋へと持っていった。

 そして小さな包を持って戻ってきた。

「報酬だ」

 中身を確認すると大銀貨が6枚。

 それを集まってきた子どもたちにも見せてやる。

 アセリアに聖水の相場が分からないが、今の自分には大金であるし、これで欲しいものが買える。

「不足か?」

「いえ。ありがとうございました」

ノアが商人のところへ行こうと急かすのですぐさまギルドを出た。



 再び村の入口に戻ると、荷馬車の周りでは依然として人だかりが出来ていた。

 村人達が目をギラつかせながら品物を物色しており、その中で気に入った物があれば我先に取られまいと商人と引切しなしに交換をせがみ続けている。

 その中にまだ村長の姿があり、丁寧に包まれた何かを渡し、代わりに袋一杯に詰められた黒パンを受け取り満足そうに足早に帰っていく所であった。

「まだ肉あるかな」

 アンネが心配そうにいうので荷馬車の中身を遠くから確認すると、ぶら下がっているものが幾つかある。だが今まさにそのうちの1つが取られてしまい、村人へ渡ってしまった。

「あ、とられた」

 アンネが不安そうな声でいうので、アセリアは群衆をかき分けて商人の前までやってきた。

「お、さっきの」

「先程はどうも」

 軽くやり取りをしたが、商人はすぐさま村人につかまってしまった。

 そしてその場ですぐに村人の鉄製の鍋と商人の下等なワインとの交渉を始めだした。

 長引きそうなのでその間は肉以外の商品に目を移した。

 たった一枚の布切れから立派な鋼鉄製の長剣まで扱いがある。

 それから衣服の類があり、未加工の麻生地を見つけた。

 あれも欲しいとアセリアは思い、ついに取引を終えた商人がやってきた。

「金は用意できたかい?」

 不気味な笑みで言うので大銀貨1枚を見せた。

 途端に笑うのやめ、商人《《》》の顔付きになった。

「肉は幾つ必要だ?」

 これが彼の本来の声色なのだろう、低く聞こえやすい。

「あるだけ全て、といいますと」

 見えているだけで4本ある。

 状態はそこまで悪くなさそうである。

「だったらそれだけじゃ足りないな。もう一枚ぐらい渡してもらわないと」

 アセリアは交渉術を持たない。仕方なくもう一枚差し出した。

「ありがとよ。お釣りは銅貨でいいか?」

「だったらそれを」

 村人からは不評なのか手つかずのまま残っている麻生地をお釣り分だけもらう。

 その奥に羊毛もあったのでついでに買うと伝えると、足りないということでもう一枚さしだした。

「またお釣りが出来ちまう。あんたは銅貨は持ってないのか?」

「あいにく大銀貨しかもっておりません」

「ふーん、ならこいつを付けてやる」

 見るとライ麦がたくさん詰まった麻袋があった。

 それを2袋渡してくれた。

「これでトントンになる。毎度あり」

 

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