第30話 ムトリ陥落
「赤い髪の女を探しています、知っているはずです。」
突然女が現れた。パオワのジューテは驚きのあまり声も出せない。見上げると800メートル 続く垂直の竪穴坑から、さらに数人の女が降りてくる。だが壁は一切の手がかりもなく氷のように滑らかで結界魔法が張られているため砂粒一つ落ちてこないはずだった。
「聞こえないのですか?赤い髪の女です早く教えなさい。」
女は苛立ちを圧に変えジューテにぶつける。儀式を前に猛々しかった全裸の彼のイチモツが急速に縮まっていくのが見える。慌てた彼は手に持つ魔導器の核を落としてしまい拾おうと跪くが女は核を踏みつけ邪魔をする。
「待ってくれ儀式を終わらせないと大変なことになってしまう。」
「イコウノックスの光はもう必要ありません。ムトリは陥落したのです、まだわからないのですか。」
「ダートーサ血を流してはだめ。」
彼女に続いて降りてきた女が注意を促す。冷静なダートーサが焦れていた。いくら予言のためだとはいえ三年は長すぎると苛立ちを隠せない。たが彼女は思い直し魔導器の核を拾い上げるとジューテに投げ渡した。彼は助かったとばかりに核を砂の上に刻まれた魔法陣に供える。やがて垂直の竪穴坑を通して入る太陽光がその核に力を注ぎ込みながら真円と成り消えていった。
「裏切り者がいるのだな。」
「あなたに質問する権利はありません。」
問いかける男に女はあくまでも冷たくそう答える。
「待ってください、グーネリそれでは私が不機嫌な意地悪女ではありませんか。」
ダートーサがグーネリの"砂漠のオアシス ムトリの無血開城"の語りに横槍を入れる。
「、、、、、」
言葉を失うグーネリにダートーサは、
「何をそんなに驚いているのです?」
「いや、あなたがそんなこと、気にするなんて思ってなかっただけよ。」
「面白おかしくされるのが嫌だっただけです。」
「そんなことしていないわ。」
「しました。」
「いいえ、していません。」
「しました。」
「勘違いです。」
「しました。」
「カリーシンはどう思われますか?」
突然振られたシエリは心の中で"やめてくれ"と叫びながら平静を装い答える。
「俺はそうだな、みんなとは初対面のようなものなのでよくわからないな。」
「そんなこと聞いていません。」
「そうだな、カリーシン。今のは誤魔化したな。」
「まあ確かに誤魔化した、だが興味深い話だ。俺が関わっていたことは憶えていないが。」
「今度は捻じ曲げたよ。」
「捻じ曲げたな魔法か?」
「魔法ですね。」
「止めてくれ。」
「きっと柔道の技はですよ。」
「袖釣込腰」
「それね、難しいけど美しい技。」
「俺が悪かったから、その辺で勘弁してくれないか。」
「分かれば良いのです。」
そして何事もなかったかのように話は再開された。
「そのようにしてオアシスを制御する魔導器の核と歳時と儀式を司る一族の指導者ジューテを押さえた私達はムトリを無血開城したのです。」
「待ってください私の大活躍した大冒険の部分がありません、そこもお兄様に伝えください。」
ルーゼが頬を膨らませグーネリに抗議するが。
「裏切り者として一族をオアシスを追放されたこの女はそれ以来姫様につきまとい大変迷惑をかけ続けているのです。」
「さっさと父親と和解すればよかったのに外の世界が珍しい田舎娘はそのタイミングを逸してしまい自縛霊となり成仏もできずに現在に至っているのです。」
「ひどい、ひどすぎます私は地縛霊などではありません。一族を守るため肉体を捨てた英霊です。」
「そういう言い方もあるかもしれませんが、この忙しい時に姫様に取り付く大変迷惑な存在なのも事実です。」
大変迷惑な存在だと強調された娘をシエリは同情するがそれが大きな間違いだったことを後に思い知らされることになる。
「冗談はさておき現在のムトリで何が起こっているのか詳しくはこの娘からお聞きください。」
冗談だったのか?だが、シエリはそのことを深追いせずに先のことを考える。インドからヒマラヤに入るべきかネパールから入るべきか。大きな地震が様々な影響を与えているはずだアデラール・シエリもそれに巻き込まれて行方が不明になっている。膝の上に置かれた手を見ながら女の様子を、"この女がエブリン・エクスローズだと"、一体どう扱ったらいいのだろうかと頭を悩ませる。
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