第17話 サリーの魔女達2

 案内された広い応接室の一枚板の分厚いガラスの向こうにもシカゴのビル群と街並みの光が見える。

「摩天楼といえばニューヨークを思い出しますが、このシカゴの風景が摩天楼のそもそもの由来だと言われています。」

 ダートーサが重い空気を変えようとする、だが、彼女の奥底にある殺意に変わりはない。部屋にはすでに3人の女たちが各々の好みの椅子に腰掛けシエリに視線を送っていた。中央部に置かれた応接セットのすわり心地の良さそうなソファを勧められるが、そこは彼女たちの間合いのど真ん中だ。一人一人ならば、なんとかなるかもしれないが、四人まとめて相手をするとなると、この中の二人を道連れするのが限度だろう。シエリはそうシュミレートする。

「カリーシン長旅お疲れありませんか?」

 そう尋ねてきたのはグーネリ・サイファール。輝く金髪と紺碧の瞳に白い肌、柔らかそうな頬と唇に男は想像を膨らませるが、それはしてはならぬことだと彼女は手荒く教えてくれるだろう。エブリン の左を守る魔導剣士だ。

「心配ない、グーネリの剣速を思い出して目が覚めたよ。」

 再び、シエリから予測できぬ言葉が発せられる。グーネリの左手が傍らに置かれた剣に伸びかけたが引き戻された。褐色の肌、長身の女が立ち上がりグーネリの肩に手を置いている。

「カリーシン、相変わらず恐ろしい男だな。記憶がないというのが不思議なくらいだ。」

 エブリンの右手を守護するマイコ・フュージョンは流星と呼ばれ、エブリン・エクスローズに近づく者はまず彼女の魔眼の洗礼を受けることになる。

「相変わらずびっくりするような美しさに驚かされるよマイコ、記憶は無くしたままだが、これから夜空を見上げるたびに君を思い出すことにしよう。」

「フランス男。」

 そう言ったのは大きな一人がけのソファに猫のように丸まった。これまた別タイプの美女だがシエリには彼女には見覚えがあった。数時間前まで同じ飛行機に乗っていたはずだ。ぴょんぴょんと寝癖で跳ねた茶色い柔らかそうな髪が猫耳に見えなくもない、ワッセンナー・レッティングウェグ はエブリン・エクスローズの夢を守護する者だ。

「先ほどの一撃は強烈だったぞワッセンナー、正直まだ落ち込んでいる。」

「知ってる、ずっと見てたし。」

 意地悪に聞こえる言葉だが、シエリはワッセンナーが優しい女だと知っている、具体的には何も覚えている訳ではないが。そしてダートーサがシエリの前の椅子に腰を下ろす。彼女はエブリンの影と呼ばれ、エブリン・エクスローズとは異なる思考方法であらゆる角度から物事を検証する探索者シーカーとして使えてきた者だ。だが、そこに肝心のエブリン・エクスローズの姿は見えない。

 グルガン族は単一民族ではない、移民、難民の集合体で長い時間をかけて戦いに特化して進化した戦士集団としてグルガン族を名乗ったのが始まりだ。最盛期には北大陸の最も豊かな中央草原を領土とした第三世代最大の五つの戦士集団からなる選帝侯国を作り上げ、その第一王女であったエブリン・ローズがアシュールとして転生を始めた事をきっかけにアシュールに選ばれし戦人いくさびとと周知されることになる。

「カリーシン、まず最初にお断りをしなければなりません。残念ながら姫様は現在急なご不在でこの会合には出席されません。姫様は心よりあなた様との再会をお望みであられましたが、これは天命だと納得していただきました。」

 なるほど、天命とは都合の良い言い訳だが、おそらく事実なのだろうと、シエリは納得する。もしエブリンが彼との再会を果たせば彼女は シエリの安全を身を挺して守るだろう。しかし、それでは彼女とサリー(旅の姉妹)の間に溝ができてしまい、サリーとシエリの間の壁も消える事は無いだろう。

「まあ、天命と呼んで差し支えないな。」 

 様々な想い、願いが五人の間に駆け巡る。最初に動いたのは シエリだった。彼は指先で空間を次元を斬ると、一本の剣を取り出した。1000年以上前、一人のアシュールが鍛えたと言われている伝説の剣だ。収納の特性もこの剣の物でシエリは彼の秘中の秘を公開し剣をテーブルの上に置くとダートーサの方へ押し出した。


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