第12話 長女の事情
「すまんすまん、俺の中ではもう完成しているっていう意味かな。」
「一晩で私たち三人の武器のイメージが出来上がってるということですか?」
「そう昨晩は一生懸命寝て夢の中で考えた、まだ教えないけど希望があれば聞くよ。」
始乃は驚くよりも、それがアシュールの力だと受け入れることにする。この一見柔らかく優しい男の奥深さに迷い込んでしまったと意識しながら。
「聴雪様の"言う通り"でお願いします。」
「うんわかった、ただ俺は素材集めに粘るから結局出来上がりはぎりぎりになるかもしれないけど、そこのところもよろしく頼む。」
ユキは始乃との会話を楽しみながら今日一日の予定や知りたい事を整理する。
「この先に住んでるという鍛冶屋の腕前はどれほどだ?」
「かなりのものだと聞いております。」
「次女の方は結界師のようだがお名前は?」
「ご自分でお聞きになった方が良いと思います。」
「三女の方も名前は自分で聞くとして師匠はおられるのかな剣士のようだが?」
「3年ほど旅の剣士に稽古をつけて頂いておりますが、ここ一年は境界線で腕を磨いているようです。」
「始乃さんは魔女のようだが血はお好きかな?」
「好物でございます。」
「あら、」
思わずそう答えてしまった始乃の瞳の色が様々な色へと変化していく、この男にはどの瞳の色で対処すればいいのか思考を重ねているようだ。室温は下がり、辺りには良い匂いが立ち込め、遠くから心に響く歌声まで聞こえてくる。だが先を制したのはユキだった。
「おかわりを頼む。」
何事もなかったかのように茶碗を差し出す。始乃は毒気を抜かれ呆気に取られる。
「ひどい、裸を覗かれました!」
「見ていない。」
「見ました。」
始乃は プイッと拗ねてしまうが立ち上がると茶碗を受け取り飯を扮いに行く。魔女とか血が好きだとか関係なく優しい娘だとユキは嬉しそうに礼を言う。そして飯を食い終わったら境内の鍛冶場を確認して町の鍛冶屋に足を運んでみようと考える。
「噂通り恐ろしい方ですね。一日もしないうちに丸裸にされてしまいました。」
ユキは笑ってごまかすと最後にバナナを平らげ約束通り洗い物の手伝いをして一旦部屋に戻る。荷物を探りお目当ての包みを見つけりと懐に入れ鍛冶場へ向かう。先ほど次女の巫の娘がこちらを睨みつけ歩いて行った回廊をたどり社殿へと考え事をしながら歩いて行く。ドーム状の結界は厚い霧を押しのけ天頂部からは青空が見える。季節は夏の終わりだが強い太陽が降り注いでいるのを見るとユキはなぜかほっとするのだった。
三女の部屋には使えそうな戦利品が山積みになっていたがやはり元になる玉鋼が重要だ手持ちの希少鉱物を合わせてバランスよく打ち合わせていきたい。さらには地球上には存在しない鉱物もこの境界線の街では手に入るんではないかと期待していた。
ジャマイカで買ったジャークチキンのスパイスがあったなと思ったのは境内を歩くニワトリを見たからで全く人の気配がしない。鶏はもしかして神獣扱いかもしれないのでそれ以上想像膨らませないようにする。井戸か湧き水を探し地下を流れる水脈をたどりながら歩いて行く高地だが岩盤の上に流れる豊かな水を感じながら社殿の裏まで来たところでそこを見つけた。しかしその鍛冶場の前には少女がぺったり座り込み入り口を塞いでいた。
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