放浪記編
第19話【傷心】
完全に傷心していた僕は家に籠るようになった。
それから2か月が経った頃、妹から宣告を受けた。
「今すぐ出ていけ。早く。」
僕の部屋を勢いよく開けて、もの凄い剣幕だった。
「早くしろ。今すぐ出ていけ。」
僕は何も言い返さなかった。
家賃折半のルールを破ったからだ。
1文無しの僕は、2か月間1円も払わずに家にいた。
僕は行く当てもないまま、1番大きいカバンに詰められるだけ詰めて家を出た。
僕の唯一の財産は携帯電話だった。
お金は本当に1円もない。
この状況を救ってくれたのは、高校の同級生の里穂だった。
高校時代で残っている唯一の友達だ。
里穂は女性だが男勝りな性格をしている。
ショートカットの黒髪で、制服のスカートは嫌いだし、文化祭での可愛いコスプレを最後まで拒否していた。
その里穂は高校卒業後すぐに就職して、1人暮らしをしていた。
僕は里穂に今の状況を説明すると『家に来るか?』と言ってくれた。
さすがに異性の家に何日もいるわけにはいかないと思ったので僕は携帯やフリーペーパーで寮付きの仕事を探した。
すると1件かなり好条件の仕事があった。土木、建築関係の仕事だった。
【完全個室の寮完備、給料完全その日払い!人手不足に付き大募集中!】との見出しだった。
僕はすぐに電話をして、面接の日取りを決めた。
「里穂、ごめん。電車代と履歴書代と写真代借りていい?」
「いいよ!ちゃんと頑張りなよ。」と背中を押してくれた。
数日が経って面接当日。家を出ようとしたときに電話が鳴った。
面接の会社からだ。なんだろう。
「はい。もしもし」
「あ、今日面接に来られる際に寮に入る準備してきてください!」
というものだった。
荷ほどきもそれほどしていなかったので簡単にまとめて家を出た。
「これって採用確定じゃん。」と安堵した。
そして、会社に着いて、面接は1分で終わった。
そして、そのまま寮に案内された。
「ここが寮です。何人か居るので仲良くしてくださいね。」
「え?個室じゃないんですか?」
「今個室が一杯でね。ごめんよ。」
「あ、わ、分かりました。」
納得はできなかったが、家がない僕は文句の言える状況ではなかった。
ここの仕事は朝が早い。
5時には車に乗ってみんなで現場に向かう。
定時は17時。帰宅してご飯。
ご飯は希望する者は格安の寮のご飯だが、これが酷い。
どの食べ物からも嗅いだことのない異臭を放っていた。
皆それを平然と食べる。
平気で食べられるようになるには、どれほどの試練をくぐってきたのかと思う。
だからほとんどの人は自炊する。
寮にはいくつかルールがあった。その一部はこんな感じだ。
・冷蔵庫に入っていて名前が書いてない物は皆の物。
・お米は買ってきたら米びつに入れ共有する。
・部屋の掃除は気が付いた人がやる。
・ゴミ出しは最後にゴミを入れパンパンにした人が捨てる。
・お風呂を貯めるのはいいが、出るときにはお湯を流して洗って出てくる。
「個室に早く行きたいなぁ」
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