第11話 メンタルチェック3
とはいえ、だ。俺にどうこう言える資格はないし、結局のところは片瀬の意思の問題で、最後に決めるのも彼女だ。それはわかっている。
わかった上で、それでも俺は片瀬に教えておきたい。身勝手で余計なお節介だと承知の上で、それでも彼女に伝えておきたい。
そのために彼女を誘ったのだから。
「なあ、片瀬」
「ん?」
「……無理してまで、辛い道を進まなくてもいいんだぞ?」
「え――」
ほんの一瞬、彼女のガラスに亀裂が入った。
「や、やだな~もう。あたしは本当に大丈夫なんだってば! でなきゃこんなに笑っていられないでしょ?」
「……………………」
「そ、そう! つまりあたしの笑顔こそが、あたしが大丈夫だということのなによりもの証明なの!」
しかしそれは瞬く間に修復されてしまった。柊の言ってた通り、大丈夫の一点張りだ。
それ以上干渉してこないで……遠回しにそう言ってるんだろう。けれども俺は、空気を読まずに続ける。
「逃げるのは悪いことじゃない。恥でもない。だから……逃げるって選択肢もあるってことを、知ってほしい」
これが片瀬に伝えたかったことであり、そして力になれそうにない無能な俺の言い訳だ。
心が壊れてから不登校になるんじゃなく、壊れる前に不登校という自己防衛を選んだ方が良いんじゃないか? 俺は片瀬にそう投げかけている。
幸い、夏休みも近い。明日からにでも始めれば約二ヶ月、橘の敵意から逃れることができる。
人の噂も七十五日をそのまま
楽観的かもしれないが、賭けにでても良い可能性はあるように思える……それだけ今が絶望的とも言えるが。
とにかく、俺は別の道もあると提示した。ここから先は片瀬次第だ。
「………………やっぱり、花厳君って優しいね」
「いや、俺は最低だよ」
「ううん……そんなことない」
片瀬はゆっくりと首を横に振り、そして力ない笑みを浮かべて俺に言う。
「でも大丈夫、あたしは大丈夫だから」
「……そうか」
「うん」
それが彼女の答えだった。
おもむろに立ち上がった片瀬は、鞄から財布を取り出し千円札を一枚、テーブルの上に置いた。
「せっかく誘ってくれたのにごめん。今日はもう、帰るね」
「ああ。悪いな、付き合わせて」
「いいのいいの! むしろ、いっぱい誘ってくれてもいいんだよ?」
「……気が向いたらな」
「是非、気を向かせてください! ――それじゃ、またね、花厳君!」
ひらひらと手を振る片瀬に俺は「じゃ」とだけ返した。
背を向けた彼女が店から出て行くのを見届けた俺は、椅子にもたれて深く息を吐く。
………………………………………………。
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