第9話 メンタルチェック1

 放課後。俺は待ち合わせ場所のファミレスにきていた。


 片瀬の姿はまだない。なにも注文しないのはお店に悪いなと思い、俺はテキトーにまめる物とドリンクバーを二人分頼んだ。


「――ごめん、待った?」


「いいや、俺もついさっき着いたとこだ」


 間もなくして片瀬がやってきた。なんだか、付き合いたてのカップルみたいなやり取りだな。恥ずかしいし気持ち悪いから言わないけど。


「なんか、付き合いたてのカップルみたいなやり取りだね……えへへ」


 対面に座った片瀬は、頬を掻きながら照れくさそうに笑った。まったく同じ感想を抱いていたことがどうにもむず痒く、俺は返答に困る。


「……あ~、とりあえず摘まめるもんと二人分のドリンクバーを頼んでおいたから」


「ありがとう」


「なに飲む?」


「え?」


「あ~いや、俺もまだ注ぎに行ってないから、どうせなら片瀬の分もと思ってな」


「い、いいよ。それくらい自分で行くから」


「そうか」


「うん」


 本人がそう言うならまあいいかと、俺は席を立って飲み物を取りに向かう。


 俺がチョイスしたのはアイスカフェオレ。そこにシロップを五つほど加え、花厳ブレンドの出来上がり。


「え、花厳君……それ、甘くなりすぎちゃうんじゃ……」


 隣でなにを飲もうかと悩んでいた片瀬が、俺の花厳ブレンドを見るなり顔を引きつかせる。


「なに言ってんだ片瀬。甘くなりすぎたくらいが美味いんだろ? カフェオレは」


「そ、そうなんだ……」


 まるで理解を示していない片瀬の微妙な反応。まあいい、わかってもらわなくてもいい。他人がドン引きしたとしても俺の舌が満足するならそれで。


 俺の人生はビターだからな……飲み物くらい甘くいかせてくれよ。


 くううううううううッ――カックイイイイイイイイッ!


 がしかし、表に出すのはやめておこう。中二病がすぎてせっかくの甘いアイスカフェオレが漆黒に侵されブラックになってしまうから。


 …………俺、疲れてるのかな?


 いかんいかん、早急に糖分を摂取せねば。俺は未だ悩んでいる片瀬を置いて、席へと戻る。


 少し遅れて片瀬も戻ってくる。悩みぬいた末に選ばれたのはオレンジジュースのようだ。


「ファミレスあるあるというか、ドリンクバーあるあるなんだけど、いっつもどれにしようか迷っちゃうんだよね」


「なら、すべて制覇すればいいのでは? そしたら迷わなくて済むだろ」


「いやいや、お腹タプタプになっちゃうから。それに、こういうのは初めの一杯が肝心なの」


「ほえ~」


 たかだがドリンクバーでなに拘ってるんだこの人、とは言わない。楽しみ方は人それぞれだから。


 それよりもと、俺はいつの間にか置かれていたフライドポテトとソーセージの盛り合わせを、皿ごと片瀬の前に差し出す。


「遠慮なく食ってくれ」


「あ、うん、ありがとう…………なんか、今日の花厳君、久しぶりに会った時のおばあちゃんみたいだね」


「ん? なんだそのわかりそうでよくわからない喩えは」


「ううん、気にしないで。――――じゃあ、お言葉に甘えて」


 片瀬はフライドポテトを指でつまみ、口へと運んだ。


「うん、おいしッ」


 ニコッと笑う彼女に「それは良かった」と俺は返し、花厳ブレンドで喉を潤した。


 この口内でねっとりとへばりつくような甘さ……堪らん。

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