第4話 まな板女
学年一の美少女こと片瀬沙世とお友達(笑)になってから俺の生活は劇的に変わりました! まずは金銭面、父が経営する会社の事業拡大が見事にはまって月のお小遣いが大幅アップ! 毎日毎日ソシャゲのガチャが引き放題で全サーバー1位にまで上り詰めることができました! キャピッ! そして次に恋愛面、なんの気なしに始めたライブ配信がバズりにバズって
……嘘である。片瀬とお友達(笑)になってから二日経ったが、俺の生活に変化はない。誰とも関わらないことで毎日安定した平和を
その安定さは、単勝オッズ1・1倍の一番人気に匹敵する。揺るがない、揺るがせない。
余談だが怪しさを前面に押し出しているサクラレビューとか詐欺広告って意外とクセになるよね。このクオリティーで騙せると本気で思ってる? ってな感じでついつい笑ってしまう。
「――それじゃまた来週」
くだらないことを考えている間にホームルームが終わり、放課後に。
金曜日なだけあって、担任が去った後の教室は浮ついている。
「ねえねえどこ遊び行くー?」
「明後日彼氏と初デートなんだけど! あーもう緊張がヤバいーーー」
「今日の合コン、めっちゃ可愛い子呼んどいたから期待しといて、だってよ! ひゃっふうううううういッ! テンション上がるううううううッ!」
おうおうこぞって青春を
こりゃお目目に悪いなと俺はササっと帰り支度を済ませ、そそくさと教室を後にする。
「――ちょっと待って」
うおッ――デジャヴッ⁉
昇降口へと繋がる階段を目前にして俺は肩を引っぱられ、体の向きを強引に変えさせられた。
「ひ、柊」
やはりと言うべきか、世紀末系女子改め柊柚希の仕業だった。
もうちょっとやり方ってもんがあるだろこのクソアマ! 馬鹿の一つ覚えのように肩ばっか狙いやがって…………あ、これちょ、ヤバいわ、肩上がんなくなっちゃってるわ――――おいクソアマ! これどうお落し前つけてくれんだッ、ああッ?
「随分と反抗的な目してるじゃない……なに、ひょっとして文句があるわけ?」
「い、いやぁ? 別に」
柊の鋭利な目つきに思わず俺は視線を逸らしてしまう。自分が情けない。
「んでなにか用? できれば手短にお願いしたいんだけど……俺も急いでるから」
「そう、暇なのね。じゃあ顔貸して」
人の話聞いてたッ⁉
「いやだから俺も急いでるから、今ここで済ませられない用なら後日――」
「グダグダ言ってないで早くきて」
「うん、だから人の話ちゃんと聞いて――」
「あーはいはい、そういうのいいから」
「そういうのいいからじゃねーから――」
「あーオモシロイオモシロイ。これで満足した? じゃあきて」
「おい調子乗ってんじゃねーぞこのまな板女が! その控えめな胸の上で鯛さばいてやろうか? ああッ?」
「あーはいは――――今なんつった?」
空気が、凍る。
しまったああああッ、勢い余ってつい本音があああああッ。
「ねえ……さっきまな板女がどうのって聞こえたんだけど、それって誰のこと指してんの? あ、もしかして私だったりする?」
無表情のまま目だけをカッと見開かせ、体を左右に揺らしながら俺との間合いを詰めてくる柊。
え、ちょっと、スプラッター映画の殺人鬼並みに怖いんだけどもッ⁉ なに、俺殺されちゃうの? 鯛じゃなくて俺がお造りにされちゃうのッ?
「ねえ――教えてよ」
眼前まで迫ってきた柊から距離を取るべく、俺は上体を後ろに反らし明後日の方向を見つめる。
「き、聞き間違いだから、それ」
「へぇ……じゃあなんて言ったん?」
「ちょ、調子乗っててすいませんでしたまな板洗いだろうが鯛さばきだろうがあなた様のご指示ならどんなことでも引き受ける所存でございますのでどうかなんなりと……って、言ったんだよ」
目をぱちくりとさせる柊。その瞳は徐々に色を取り戻していく。
「そ。最初から素直に従っておきなさいよ」
柊はそう言って身を
ば、馬鹿で助かったぁ……。
俺が安堵していると、柊は「あ!」となにかを思い出したような声を上げ立ち止まる。
「次はないからね」
振り返らずに言った柊。どんな表情をしているのかは俺がいる位置からじゃ窺えない。窺えないからこそ恐怖を駆り立ててくる。
人のコンプレックスを軽々しくおちょくってはいけない……そう再認識させられた恐怖体験だった。
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