第14話



「は、放しなさいよ!」


 急いでノヴァの元に駆けつけると、甲高い女の子の声が聞こえてきた。ノヴァに襟を銜えられて動けないでいる。

 やっぱりそうだったのね。炎で思い出したけど、恋100で火を扱うことが出来るのは一人だけだった。


「レベッカ・グレッチャーね」


 仮面を取り、彼女の顔を見る。

 いきなりよく分からない獣に捕まって怖かったんでしょうね。大きな瞳に涙を溜めて、今にも泣きだしそうだわ。この世界の人間でも聖獣なんてほとんど見たことがないだろうし、仕方ないわね。


「な、何者なのあなた!」

「……私はヴァネッサベル・そういえば、分かるかしら?」

「ヴァネッサベル……? それって、ハドレー国の第一王女だった……死んだんじゃなかったの?」

「理由あって姿を隠しているのよ。そんあことより、貴女は何でシャルロッテのことを狙うのかしら」

「そ、そんなの……あの女が悪いのよ! キアノのことを唆して利用しようとしてるって」

「誰がそんなこと言ったの?」

「っ、それは……」


 やっぱり裏に誰かがいるのね。これはちょっと厄介なことになりそうだわ。


「ねぇ、レベッカ。そんなことしてキアノ王子にどう思われるか考えたりしないの?」

「え……」

「誰かを傷付けるようなことをする子を、彼は好意的に思う? もし真面目で実直な彼が貴女のしたことを知ったら……どうなるかしら?」

「……そ、それは」


 レベッカの顔が青褪めていく。そこまで考えてはいなかったのね。それか彼女の裏にいる人物が上手いこと言ったのかも。

 大丈夫よ。キアノルートなら私も攻略済みなんだから、任せて頂戴。


「大丈夫よ、レベッカ」


 私はそっとレベッカの顎に手を添えてクイッと上を向かせた。なんか自然と体が動いちゃったんだけど、こういう仕草が様になるわね、ベルは。


「私が協力してあげる。シャルロットからキアノ王子を奪う方法を私が教えてあげるわ」

「……ほ、本当に?」

「ええ。キアノ王子にはずっと傍にいた貴方の方がお似合いだわ。私に任せてくれれば、絶対に彼と結婚できる。どう? 私に従う気はある?」

「で、でも……」


 揺れてるわね。もう一声って感じかしら。

 この子の後ろにいるのが誰か分からないけど、そいつからレベッカのことも守ってあげないといけなくなるわね。


「レベッカ」

「な、なに……」

「安心なさい。私が貴女を守ってあげるわ。だから黙って私に従いなさい」

「は、はい! お姉様!」


 顔が良いって便利だわ。ベルの眼力だけでレベッカを落としちゃった。

 でもこれでチェアドーラ国にも行き来しやすくなる。

 ノヴァにレベッカを放させ、手を取って立ち上がらせた。レベッカもシャルと系統は似ているのよね。小柄でふわふわ系。ちょっと性格がキツいくらいで大人しくしてればお人形さんのように可愛い。


「それと、私は死んだことになっているんだから正体をバラさないように」

「え、ええ。でもどうして?」

「色々とあるのよ。とりあえず、ここじゃ話もしにくいし、私の家に行きましょう。ノヴァ」

「え、え?」


 ノヴァの背中にレベッカを乗せて、私たちは家に戻ることにした。

 山を軽く飛び越える聖獣の跳躍力に怖がってずっと私にしがみついて悲鳴を上げていたわ。

 あんまり騒がれると私の能力でも隠し切れなくなるから困るのよね。



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