第21話 バス=ジェットコースター

「佐賀県最後はこちら、吉野ヶ里遺跡です!歴史の教科書でしか見たことなかったんですけど、おっきいですね!」


吉野ヶ里遺跡は、小学校の歴史の授業から高校まで教科書で見てきたものであり、それは多くの人に当てはまるだろうし、つまりメジャーなものだといえる。そんな教科書からのイメージは小さい遺跡だったが、生で見るとかなり大きい。


「これ何メートルくらいあるんですかね。私10人分以上の高さですよね」


多くの観光客の方がいらっしゃっているメジャーな観光地だが、意外と静かである。

ひと通り回ってカメラを止めたところで声をかけられた。


「…写真撮影ですか?いいですよ〜」


何故か写真撮影を求められた。実は初めてだったりするので少し緊張した。名前を聞かれたが、調べても私のSNSしかヒットしないくらいの知名度。なんならエイプリルフールでは?とインターネットから煽られる事実。

そして2桁のフォロワー数しかないゆえに少しガッカリされたのが心にきました…。

ただし、応援します、とSNSをフォローしてくれたので許します。私は寛大な心を持っているので。







「アクシデントで少し時間取られたけど、予定通り進んでます。四月一日さん、今日もいい感じですよ」


「ありがとうございます!」


褒められて伸びるタイプなので、長崎での収録も期待していてください、と言うと


「えぇ期待してます」


少し笑って、でもすぐに真剣な目になって応えられた。

あまり自信過剰にならないように、気を引き締めなければ。自分でも少し浮き足立っていたかもしれない。橋本プロデューサーは、多分飴と鞭が上手い人な気がする。

こういうタイプの人は怒らせたら駄目だと第六感が告げている。


「あかり姉さん、飲み物です」


「あっありがとう」


実は収録の休憩中に全く会話がなかったので、収録の中では初めての会話である。多分私が気合いを入れていたり、物思いにふけっていたりしていたせいで声をかけにくかったのかもしれない。


「今日もすごいよかった。私もメイク気合い入れてし直すからね」


ここはこうだったとか、あれはどうだったとか、笑顔で収録内容を振り返ってくれる奈緒ちゃんと一緒にバスへ乗り込む。

さぁ次は長崎だ。


移動時間は、隣の席に座った奈緒ちゃんからここがよかった、あそこがよかったとべた褒めされた一方、橋本さんも話に入ってきてダメだしもされ、バスに乗っているのにジェットコースターに乗っているかのように私の気持ちは浮き沈んだ。橋本さんさっきは褒めてくれたじゃないですか…鞭が早いですよ。


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