掌編集2021

たぴ岡

雷がさらった

 ドシャン、窓が光ってから何回目かの大きな音が鳴る。光と音の時間差的に、意外と近いところに雷が落ちているらしい。ありえないとは思うが、もしこの家目掛けて落ちてきたらどうしようか。

 隣で毛布を被って震えている彼に目をやる。随分前に落ちた雷のせいで停電してから、彼は毛布から出ようとしない。

 小さい頃から落雷が苦手なのだと言っていた。かわいそうに。どれだけ厚い殻にこもったところで逃げ切ることはできないのに。

「大丈夫、大丈夫だよ」

 ゆっくりその背中を撫でてやる。と、暗い部屋を一筋の光が刺す。

「う、うわああ! ダメだ、もうダメだ。僕らもあいつにさらわれるんだ……」

 涙に濡れた彼のその言葉は、轟音にかき消された。それ以降彼の動きは止まり、悲鳴をあげることもなくなった。


お題「落雷後の停電」

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