空っぽ
ただいま、呟きながら未だ慣れない真っ暗な部屋の電気をつける。少し前までは子犬みたいな人懐っこいあの人が、心底嬉しそうにおかえりと言ってくれていたのに、それはもうない。ご飯を準備しているいい香りも、沸いたお風呂の温かさも、何もないのだ。
ひとつため息をついて、頭を抱えてしゃがみこむ。彼はどこへ消えてしまったのか、なぜ何も言わずにいなくなったのか。今日もまた深い闇に沈み込む。でも本当はわかっている。認めたくないだけ。早く帰ってきてよ、なんて泣いてみても叶わないことは知っていた。
彼はもう二度と、この家には帰ってこない。その事実は私の心を折るのには充分すぎた。何もかもが手につかない。仕事だって、出勤しているだけで何も出来ていない。あなたのためにやらなければならないこともあるのに、何も進んではいない。
あなたがいないと私は何も出来ないの。寂しいよ。どうか笑顔を見せてほしい。震える手でそれを持つ。去年行った新婚旅行の、あなたと二人で写った写真。私たちの最後の思い出。
涙は寂しく床に落ちた。
お題「空っぽ」
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