第28話「元最強陰陽師、エルフの森へ」
「と言う訳で、ヒヒイロカネを探すことになった」
「ヒヒイロカネ……ってなんだにゃ?」
授業の後、食堂で昼食をとりながら今後の方針を述べたが、カナデを除く皆に不思議そうな顔をされた。
「ヒヒイロカネってのはな、魔術的な金属で様々な性質があるんだ」
ヒヒイロカネについては元の世界で様々な魔術師が研究成果を発表している。
曰く。
赤く輝いている。
ダイヤモンドより硬い。
錆びることがない。
魔力を増幅させる。
こんなところが代表的なものだろうか。それに加え、朝に祖父から聞かされてたことによると、二つのヒヒイロカネが魔術的に共鳴するというものだ。
元の世界に戻るためにはこのヒヒイロカネの性質を利用する必要があるので、探すために皆の知恵を借りたいところなのだ。
「ヒヒイロカネっていう名前は、知られていませんね。魔術的な金属と言えばオリハルコンとかミスリルは知られていますが」
「それらとは違う存在だという研究結果が出ているんだ。別物だな」
「オリハルコン辺りだったら金や代わりのアーティファクトと引き換えに、高位の魔術師や王族から手に入ったかもしれないから、それは残念だね。確かこの学院にも研究用にオリハルコンがあったはずだし。実家にもあったと思う。」
その様に言ったクロニコフの実家は有力な貴族である。彼の実家にないのは残念だが、伝手をたどって探してもらうのを手伝ってもらいたいところだ。
「そういえば……」
「ん?」
「国宝の中に、赤く輝く正体不明の金属があったような気がするの」
「国宝って、エルフの一族の?」
「そう」
朝からずっと黙って、何かを思い出そうとしていたカナデだったが、ここに至ってようやく口を開いてくれた。しかも、かなり有力な情報だ。国宝というのが気にかかり、見せてもらえるのか、ましてや貸与してもらえるのか怪しいところだが、幸いカナデはエルフの姫君である。交渉の可能性がないわけではない。
別に永遠に貰う訳でもないので、何とか貸してほしいところである。場合によってはゲートを使って実家から元の世界の貴重な魔術道具などを代価として支払ってもいい。
ただし、先ずはエルフに国宝として伝わる金属が、本当にヒヒイロカネかどうかを確かめなければならない。
「それじゃあ、旅の準備が整ったら、カナデの実家のあるペペルイの森に行ってみるよ。カナデには紹介状を書いてもらいたいな。流石にエルフの王族に何の紹介もなく面会したり頼み事なんてできないだろうからね」
「あっ、私も行きますよ。しばらく実家に戻っていなかったから、里帰りも兼ねられますから」
「そうかい? 出来るならそっちの方がありがたいから、助かるよ」
紹介状も良いのだが、姫が直接同行して頼むのとは期待できる効果に雲泥の差がある。カナデの厚意には感謝の念しかない。
「そうなると私も」
「僕も行かなきゃならないニャー」
アマデオやダイキチはカナデと同じくペペルイの森出身である。そして、彼らの種族であるオーガやケットシーは緩やかではあるが、エルフの傘下に入っているらしい。そんな彼らはカナデがバナード魔術学院に入学する際に、お付として派遣されているということだ。つまり、極端な言い方をすればアマデオとダイキチはカナデの家来にあたることになるので、カナデが実家に戻るのにそれに同行しないのは体面上よろしくないのだろう。
「僕は今回は遠慮させてもらおう。授業があるからね」
ペペルイの森の勢力事情とは関係のないクロニコフは今回は不参加を表明した。この学院の授業への参加に関しては、最終的に試験さえ通れば毎回の受講は求められないのだが、特に用事がなければ基本的に皆真面目に参加しているようだ。
カナデ達の成績は大丈夫なのかというと、カナデは幼少期から英才教育を受けているし、アマデオはオーガという肉体系の種族ながらその中では知性派であり問題なし、ダイキチも猫で語尾に「ニャー」が付く妙なしゃべり方をするが学業上は上位であるらしく、ちょっとの間授業にでなくても問題はないようだ。
加えて言えば、俺がこの世界に来てから、陰陽道のみならず天文学や霊薬作りなど様々な事に関して教えて共に実践しているので、学力は向上しているとのことだ。更に、皆で図書館に籠って調べ物をしたり、天文台に上って星の運行を観測したりしていたことは、積極的に魔術研究に取り組んでいると教師陣から見られているらしく、ポイントは十分稼げているようだ。
なお、俺は聴講生なので試験や評価などは一切関係ない。
旅支度や土産物の準備を明日中に完了させ、明後日出発することで話はまとまった。
エルフの森という、とてもファンタジーな場所に行くことや、本当にヒヒイロカネが存在し、それを貸与してもらえるのかという期待や不安を胸に、出発までの時間を過ごしたのだった。
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